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アネモメトリ -風の手帖-

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#56

生活都市での芸術祭
― 埼玉県さいたま市

昨年、さいたま市で初めての国際芸術祭「さいたまトリエンナーレ2016」が開催されました。
さいたま市は2001年に浦和、大宮、与野の3市が合併してでき、さらに岩槻市を編入した新しいまちです。現在では人口129万人の大都市となりましたが、市の特徴を聞くと多くの人は特に何もないと答えます。東京に近いけれども横浜のような都会ではなく、「見沼たんぼ」に代表される豊かな自然が残されているのに観光地でもありません。人が普通に暮らしている生活都市なのです。こういった生活都市での芸術祭の開催は、今までに例のなかったことです。
何もないと言われるさいたま市ですが、実は文化芸術と深い縁があります。かつて関東大震災で被害が比較的少なかったことから、浦和の別所沼周辺には画家が多数移住し、文学者の多い鎌倉と並んで「鎌倉文士に浦和画家」と言われました。一方、大宮では震災を機に、東京の小石川から盆栽業者が集団移転してきて「盆栽村」が形成されました。これらはさいたま市の文化遺産として今に至り、浦和区には埼玉県立近代美術館とうらわ美術館が、北区には「盆栽町」という地名とともに、世界初の公立の盆栽美術館である大宮盆栽美術館が建てられています。今春、「第8回世界盆栽大会」も開催され、世界各地から多くの来場者が訪れました。
また、約1260haの広大な緑地空間「見沼たんぼ」は美しい田園風景と古い歴史を残しており、多くの人を魅了しています。
このような中で開催された「さいたまトリエンナーレ」では、さいたまの自然や歴史、風景等に触発されて、34組全てのアーティストが区役所の使われなくなった厨房や、かつて住居として使われていた県の旧部長公舎、実際に運行している東武鉄道の車両などを舞台にオリジナルの新作アートを発表しました。こうしてさいたま市の日常に現代アートが投入されたのです。
「さいたまトリエンナーレ」で撒かれた芸術の種からは、確実に創造的な市民活動の芽が出て新たなプロジェクトが始動しています。第2回目は「さいたま国際芸術祭」と名称を変更し、東京オリンピック・パラリンピック競技大会に先駆けて、2020年の春頃に開催される予定です。次回は皆さんも是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

(小野行幸)

参考
Web:さいたま市 
http://www.city.saitama.jp/ 

Web:さいたまトリエンナーレ2016 
http://saitamatriennale.jp/

Web:見沼たんぼ
http://www.minumatanbo-saitama.jp/

浦和画家が愛した別所沼と、日比野克彦《種は船プロジェクトinさいたま》

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さいたま市を象徴する作品。アイガルス・ビクシェ《さいたまビジネスマン》

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川埜龍三《犀の角がも少し長ければ歴史は変わっていただろう》の犀型埴輪。

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