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アネモメトリ -風の手帖-

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#43

パンから広がるまちづくり
― 北海道浦河町

私の生まれ育った海沿いの小さな町、北海道浦河町には地産地消という言葉が当たり前になるずっと前から地元の食材にこだわったパンをつくっている人気のパン屋があります。パンが美味しいのはもちろんですが、それだけでなく、マルシェを企画したり地域の様々な活動を応援したり、人と人をつなぐきっかけをつくりながら、パンを通して町づくりをしている素敵なパン屋です。
店主のIさんから店舗改修の相談を受けたのは半年前のことでした。「デザインをあなたにお願いして、施工は地元で頑張っている若手の建築家グループにお願いしたいと思っているのだけれど……」と相談を受け、わくわくするような協働プロジェクトが始まりました。
メンバーでやりとりを重ね、工事の内容は外壁を新しくすることと風除室を増築することに決まりました。風除室とは、外気の侵入を防いで室温を一定に保つための設備。お店の入り口にある、小さなスペースのことです。
私は、地域に根ざし、地域に愛されているパン屋にふさわしいデザインとは何だろうと考え、見た目の美しさだけでなく、空間づくりを通して新たなコミュニケーションが生まれるきっかけをつくりたいと考えました。
風除室の内部はイベント時に活用したり、常設の物販スペースとして利用できる空間にしたい、風除室づくりも地域のみなさんに参加してもらうワークショップ形式でやりませんか? と提案しました。メンバー一同、この案にすぐに賛同してくれて一気にコンセプトが固まりました。
風除室の塗装と板貼りのワークショップは地域の皆さんも参加しながら進め、ワークショップの参加者に振る舞うランチは、飲食の仕事に就くことを夢見る小中学生が店主のIさんと一緒につくりました。
こうして3日間にわたり開催したワークショップにはのべ100名の方が参加してくれました。「新しいお店づくりの仲間に加わりたかった」という参加者の声が、店がいかに地域に愛されているかを表しているのではないでしょうか。
完成した風除室は、店主のIさんのアイデアにより、将来自分のお店を持ちたいという人にシェアスペースとして貸し出されることになりました。
誠実にコツコツとしなやかに、時に圧倒されるほどの情熱で一歩前に足を踏み出す店主のIさんの思いがつまった「ぱんぱかぱん」。これからの広がりが楽しみです。

ぱんぱかぱん
https://www.facebook.com/panpakapan0

(姉帯美保子)

子供も大人も参加した塗装ワークショプの様子。

子供も大人も参加した塗装ワークショプの様子。

ワークショップの参加者のためにランチをつくるのは、飲食の仕事に就くことを夢見る子供たち。

ワークショップの参加者のためにランチをつくるのは、飲食の仕事に就くことを夢見る子供たち。

改修工事が終わり新装開店オープン当日の朝。店主のIさんの新たな一歩が始まります。

改修工事が終わり新装開店オープン当日の朝。店主のIさんの新たな一歩が始まります。