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#40

国境を越えたクラッダーリング
― アイルランド ゴールウェイ

荘厳な教会や煌びやかな装飾品に満ちた中世の城、古代に建てられた神殿。ヨーロッパ各国には世界に名だたる建築や観光名所がいくつもあります。アイルランドにはそういった大規模な「代名詞」と呼べるものはほとんどありませんが、国外にまで広がった、あるアイリッシュデザインがあります。それがクラッダーリングです。
クラッダーリングは漁師町だったクラッダー(現在のゴールウェイの一部)を発祥とする指輪で、17世紀頃から作られるようになりました。忠誠(王冠)、愛(ハート)、友情(ハートを包む両手)を意味するこの指輪は、アイルランドだけでなくアメリカやカナダでも知られています。なぜ国外にもクラッダーリングが広がったのか。それは指輪にまつわる伝統とアイルランドの歴史が関係しています。
クラッダーリングは母親から長女もしくは孫娘に、嫁入りの際の財産として託されるものでした。この慣習は、多くのアイルランド人がアメリカやカナダに流出した18~19世紀にもまだ受け継がれていました。イングランドによる統治や飢饉により、祖国を離れざるを得なくなった彼らを待っていたのは、長い船旅と移住先での差別でした。そんな苦しい状況のなか、クラッダーリングは故郷や家族との繋がりを感じられるものとして、特別な役割を果たしていたことでしょう。祖国を思う気持ちや、離れて暮らす家族や友人への愛情や友情は、まさにクラッダーリングが象徴するものです。
次世代へと受け継いでいく伝統は現在ではあまり見られないようですが、指輪自体の意味や以下のルールは生き残っています。

・パートナーがいない場合:王冠が指先を向くように、右手につける
・交際中の場合:王冠が手首の方に向くように、右手につける
・婚約中の場合:王冠が指先を向くように、左手につける
・既婚の場合:王冠が手首の方に向くように、左手につける

現在でも婚約・結婚指輪として選ばれているクラッダーリング。実は土産物屋でも気軽に買うことができます。移民をきっかけにして広まったアイルランドの伝統が、これからは旅行者と美しいアイルランドの思い出をつなぐものとして、世界に広がることを願います。

(佐谷由希子)

ゴールウェイの街並み。

ゴールウェイの街並み。

土産物屋に売られているもの。

土産物屋に売られているもの。

変わったデザインもあります。

変わったデザインもあります。