アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

最新記事 編集部から新しい情報をご紹介。

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

TOP >>  風信帖
このページをシェア Twitter facebook
#26

「にやがりもん」が集うまち
― 福岡県久留米市

ペパーミント色の電車の窓越しに見える筑後川と、遠くに連なる耳納連山。昔と変わらないふるさとの風景は、帰省する私の心をほっと和ませてくれます。
福岡県の南に位置する久留米市。九州一の大河と山々に囲まれた自然豊かなこの街は、久留米ラーメンなどの食文化で知られていますが、この街の一番の特長は、何といっても人の気質でしょう。地元の言葉でふざけたことをする人、目立ちたがり屋の意味を持つ「にやがりもん」が多いこの街は、多くの芸能人や起業家を輩出してきました。しかし、人と繋がる意識が希薄で、年間300回以上行われているとわれるイベントは街全体の盛り上がりに寄与するものではありませんでした。
そんな中、商店街の活性化や女性や親子イベントなど各々活動を行っていた約10名のメンバーで「Chietsuku (チエツク)Project」と呼ばれる小さなプロジェクトが結成されました。
代表を務める西原健太さんは、「お互い名前は知っていたけど、ただそれだけでした。でも、『こんなに多くの人達がそれぞれ活動しているなら、そのメンバーで何かやってみればいいのに』と言われて気付いたんです。お互いが繋がることで100人のお客さんを1000人にすることが出来るかもしれない。それぞれが抱える悩みも、みんなが集まれば解決出来ることがあると思いました」と3年前の活動のきっかけを振り返ります。
現在は、「何かをやりたい」と思う人々に企画を発表する場を提供し、実現のための支援をしながら後継者を育成する彼ら。久留米の魅力をもっと多くの人に伝えたい、そして1人でも多くの人がファンになり、いつか移り住んで欲しいと語ります。なぜそこまで人を呼びたいのか尋ねると、彼はにやりと笑い答えてくれました。「だってその方が面白いことが出来るでしょ?」
日本の地方都市は、中心市街地の衰退や人口の減少等の課題を抱えており、多くの自治体は「地域活性化」を掲げながら躍起になって解決の糸口を模索しています。しかし彼らを見ていると、悲壮感や気負いはまるでなく、まるで文化祭のようにこの活動を楽しんでいます。にやがりもんが最前線で楽しそうに悪巧みをする。それは私にとって昔と変わらないふるさとの風景です。

Web:Chietsuku Project

(月田尚子)

久留米市全景。

久留米市全景。

「Chietsuku Project」の代表的な活動のひとつ「知恵つく講座」。全国で「街の力」となっている人をゲストスピーカーに迎え、「久留米で、みんなで、食っていくんです。」をコンセプトに“知恵の共有”を図っています。

「Chietsuku Project」の代表的な活動のひとつ「知恵つく講座」。全国で「街の力」となっている人をゲストスピーカーに迎え、「久留米で、みんなで、食っていくんです」をコンセプトに“知恵の共有”を図っています。