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アネモメトリ -風の手帖-

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#17

ひととひとを紡ぐ宿
― 東京都豊島区

東京の繁華街から徒歩圏とは思えないほど下町情緒漂う商店街に、今年3月、一軒の小さな宿が誕生しました。ゲストハウス「シーナと一平」。池袋駅から徒歩15分ほどの椎名町にある、元とんかつ屋の建物をリノベーションした宿でありミシンがつかえるカフェでもあります。
宿の軒先では、近所のお母さんたちが楽しそうに手作りの小物を販売し、小上がりの畳の上では、親子が裁縫をしながら自宅のようにくつろいでいます。時折、ふらりと立ち寄るご夫婦がお茶を飲みながら談笑し、またふらりと立ち去っていく。一瞬ここがゲストハウスだということを忘れてしまいます。
女将を務める江本珠理さんは、「場所があるだけでは人は集まりません。コミュニティは人がつくるもので、きっかけとしてミシンがあるだけです」と言います。
彼女は「布」、「ミシン」から「手作り」、「子供」と連想し、キーワードにひっかかる人に声をかけ、自然と人の輪の広がりを生み出していきました。しかし、ゲストハウスに泊まる旅行者と町の人をつなぐことはあえてしないと話します。「最初は、せっかくここに泊まるなら椎名町を楽しんでほしいと思っていました。でも、みんな旅のスタイルが違うんです。ラッキーな人は子供と遊べる、それでいいと思っています。宿側がそれを無理やり押し付けたり求めたりするのは、旅としてはいびつな形ではないでしょうか」
昨今のゲストハウスブームは、ゲストハウスが担う役割が旅人を泊めるだけではなくなったことを示唆しているように感じます。空き家再生、文化発信拠点、サードプレイスやコミュニティなど、ゲストハウスがあらゆる文脈で語られるようになりました。彼女に女将の役割をどう思うか聞いてみると、「毎日言う事が変わるんですけど・・」と笑いながら答えが返ってきました。「ファンをつくること、そしてファンになることです」
今、物事は複雑になりすぎているような気がします。彼女の話を聞いていると、いつになっても本質はシンプルで分かりやすいものだと気付かされます。それを実感するためにここに泊まってみるのもいいかもしれません。

Web:シーナと一平 

(月田尚子)

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