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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#8

五感に身を任せ瀬戸内サイクリング
― 愛媛県越智郡上島町

「この船、どこまで行きますか?」「え?知らないで乗ったんですか?」
白い波をじゃぶじゃぶと立てながら進む高速船の上で、風に負けないように大きな声でする乗務員との会話。たまたま目の前に入港していた船に飛び乗った私は、その揺れやエンジン音に跳ね飛ばされそうになりながら、しっかりとロードバイクのハンドルを握りしめ、名も知らぬ島の間を進んでいく船に身を任せます。この日、高速船が到着した島は愛媛県の弓削(ゆげ)島。私が乗船した広島県の因島土生港からは高速船で約10分ですが、たったこれだけの移動でも、着いた先には私の知らない島があります。
弓削の港に降り立つと、自分の感覚に身を任せて道を選びます。海を見ながらしばらく自転車で走ってみると、綺麗に整備された松林が見えてきて、その横に砂浜が広がっていることに気付きます。自転車を停めて靴を脱ぎ、硬いペダルを踏み続けた足の裏が熱く柔らかな砂に驚きながら、徐々に開放されていく心地よさ。波打ち際へ向かい、膝まで海に入って見渡すと、広い空の下には私の他に誰もいません。プライベートビーチどころか、まるで無人島にいるような静けさです。
瀬戸内海の魅力のひとつは、海に島がいくつも浮かんで見える「多島美」にあると言われます。尾道からは、しまなみ海道と呼ばれるサイクリングロードで、6つの島を通って愛媛県今治市まで自転車で渡ることもできます。この道には青いラインが引かれていて、初心者でも迷わずに走ることができます。私はぜひ、そのラインから少し外れてみることをおすすめします。そこには、自分だけの波の音があり、やわらかな潮風があります。忘れていた自分の感覚がこんなにもたくさんあることを思い起こさせてくれる風景、瀬戸内を五感に身を任せてサイクリングしてみませんか?

(手塚香恵)

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