アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#37
2016.01

生きやすい世界をつくるためのアート

後編 「しくみ」づくりと「ネオ民藝」運動
4)新しい共同体を目指す こども芸術の村

生活の基本となる、食と器のしくみ。そして、ものの価値を問い直し、消費社会の外に出るためのしくみ。
松井さんは目的を共有できるひとや地域と関わりながら、これからを見据えた「しくみ」を生み出し、動かしている。
一汁一菜の器、サイネンショーに次ぐプロジェクトとして立ち上げたのが「こども芸術の村」である。スイスの財団「日本の子供達 Foundation Enfants du Japon」の助成をうけ、子どもたちが芸術的活動を通して東北復興の中心的人材に育つように、京都造形芸術大学と東北芸術工科大学が2014年から5年間にわたって支援してゆく活動だという。
ただし、こども芸術の村は子どものためだけのコミュニティではない。被害を受けた沿岸部を中心に復興の手伝いを重ねるなかで築いてきた「ひとや場所とのネットワーク」をそう名づけたのである。
目的はまず、被災した子どもの心身の健康を育むこと。そのうえで子どもたちが東北の芸術や工芸、文化にふれ、国内外の芸術家や職人との交流を提供する場をつくる。子どもを育てる側の人材育成も行いつつ、東北のものづくりに関わる大人も子どもも、何かをつくり、互いに交流できる国際的な活動拠点を目指すものだ。
松井さんはここで村長を務め、「つくる」「うけつぐ」「つどう」「東北のげいじゅつ」というカテゴリーを設け、ワークショップなどを行ってきている。これまでの活動としては、器と食べものの関係をテーマに、フランス伝統菓子とそのお菓子に忍ばせる陶器の人形「フェーブ」をつくる「ガレッド・デ・ロワ フェーブのじかん」。手とヘラだけで成形する「手捻り」で楽焼の器をつくり、移動式の窯で焼く「ポッターさんと土のじかん、火のじかん」。部屋のなかにプラネタリウムをつくりだす「プラネタリーフォークロア」などがある。

——食べることは基本だから、ワークショップでは食育を大事に考えてます。出汁をとって、有機野菜を中心にしたご飯を出したりして。で、この先、東北だけじゃなくて日本、さらに世界じゅうからいろんな芸術に関わるひとたちがやってきて、子どもと一緒に遊びや学びの実験をしていったらいいと思ってるの。

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(上)楽焼の器をつくる(下2点)土偶のフェーブをお菓子に入れて焼く 撮影:小山真有(1点目と3点目)

(上)楽焼の器をつくる(下2点)土偶のフェーブをお菓子に入れて焼く
(撮影:小山真有 1点目と3点目)

松井さんは、1億年の土の記憶を思いながらオブジェや器などを生み出してきたひとでもある。芸術の始原を探るなかで、縄文時代にも深い関心を寄せてきたが、縄文の遺跡が数多く出土するのは東北なのだ。
その一方で、ここはこまやかな手仕事の文化が息づいてきた土地でもある。これからの未来を担う子どもたちに、東北各地で受け継がれてきた風土とものづくりの文化をまずはしっかり伝えること。そして、独自の文化を発展的に受け継いでいけるように、やわらかな発想と感性を引き出していくこと。東北の復興を長い目で見たときに、子どもはとても大切な存在なのである。
また、こども芸術の村は、松井さんにとって実験的な意味合いがとりわけ大きい。ここでは新しい共同体とその「場」をつくりだし、まだ見ぬ村を現実にしようと思っているのだ。

——新しい家族村というのか。そこに来たひとたちが家族みたいになるというんじゃないですよ。目的をある程度共有することで、ひとは一緒に居られると思うんだよね。世の中には技術を持った芸術家や職人が大勢いて、目的は特に持たないけど、ものをつくるのが大好きな芸大生とか若者もいっぱいいる。で、それを生かしてなかったりするわけでしょう。そういうひとたちのライフスタイルの選択肢のひとつにもなったらいいと思うんです。

その土地の素材や燃材を使ってものをつくりながら、生活をともにする。ものづくりを通じて循環する、ゆるやかで自由な共同体とでもいえようか。この構想は、松井さんが始めようとしている新しい民藝「ネオ民藝」のことでもある。