アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

最新記事 編集部から新しい情報をご紹介。

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#36
2015.12

生きやすい世界をつくるためのアート

前編 関係づけて、「保存と活用」するということ
8)1億年の土の歴史とスケール感

「今僕らが使ってる土は、1億年前の土なんだって。縄文時代だって1万5千年前でしかない。ひと握りのこの土が1億年前の地球からやってきた。人間は100年生きるだけでもすごいのに」松井さんが言う。壮大な流れのなかで、自分たちは生きている、と。
沖縄の、京都の、イタリアの土をさわりながら、松井さんはきっと、気の遠くなるような時の流れに思いを馳せていたのだろう。土の時間に比べれば、わたしたちの人生などほんの一瞬だ。そのスケール感があってこそ、松井さんの活動は小さな差異にとらわれず、今を起点にはるかな過去とこれからを結び、確かなところへと向かっていけるのだと思う。

松井さんと小山真有さんのユニット「ツーボトル」は、結成当時、このように“宣言” している。「2008年夏、芸術の特権化にも芸術の猫なで声にも組せず、ひたすら芸術と生活の境界に位置する広大な領域に赴き、未然の芸術の発見と交換の場作りを通して日本の芸術の自給率を高めるため、陶芸家松井利夫と美術家小山真有によって結成された」
後編では “芸術と生活の境界に位置する広大な領域”について、松井さんの考える新しい民芸運動「ネオ民芸」を中心に掘り下げていきたい。ものごとの価値を多様に見いだし、大きな循環を考える、とても“太い”思想がそこにある。

IMG_8045

IMG_8086

IMG_8124

IMG_8148

IMG_8206

IMG_8173

拠点のひとつ、久美浜にて。海で拾いものをし、廃棄処分となったカキの殻を焼きものに使う。窯では地元の土を使った器なども制作している。焼くときに用いる器を固定する道具や置き板のかたち、変化もまた美しい

拠点のひとつ、久美浜にて。海で拾いものをし、廃棄処分となったカキの殻を焼きものに使う。窯では地元の土を使った器なども制作している。焼くときに用いる器を固定する道具や置き板のかたち、変化もまた美しい

構成・文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’s KEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。