アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#35
2015.11

現代に生きるタイル

後編 再び見いだし、未来につなげる 多治見の取り組み
6)アーカイブを新たに活かすために

2号にわたって、つくり手と使い手の双方からタイルを巡る今を見てきた。

前編では、建材でありながら工芸品でもあるというタイルの性格、そして「晴れ」の舞台にも日常生活にも彩りを与えてきたタイルの特殊性が浮き彫りになった。そして忘れてはならない、タイルという素材の可能性を探求してきた先人たちの創造性を残し、現在にも引き継ごうとしているひとたちの存在が見えてきた。

後編において印象的だったのは、多治見の生活とともにあるタイルを心から愛してきた方たちの存在だ。
「モザイク浪漫館にあるタイルは、ぜんぶいいものばかり。このまちにはまだまだそういう建物が残っている。やっぱり焼き物らしいタイルがいいね。それを大事にしていかないと」と語る安藤さんのようなひとがいること。安藤さんがタイルの収集に注ぐ情熱の原動力は、故郷への愛なのかもしれない。
もうひとつは、多治見市モザイクタイルミュージアムのように、地場産業をアーカイブする方向で残し、これからに還元していこうという動きだ。

日本の近代化を支えた近代建築やまちの建物が、各地で徐々に解体の危機に直面している。そんななか、解体されてしまう建物のタイルの行く末に、多治見市モザイクタイルミュージアムが受け皿を担っていくことにもなるだろう。タイルの駆け込み寺として、その期待は大きい。開館すれば、地方のいち自治体が、生産地としてではなく、全国で唯一無二のタイルのアーカイブ拠点となることは間違いない。今は開館に向けて、タイルの収集作業やデジタルアーカイブに力を入れている段階だ。

日本各地で、ものづくりは今、さまざまな危機に直面している。そのなかには、2015年8月号9月号で紹介した有田の有田焼のように、ものづくりもその仕組みも生まれ変わりつつあるところもある。デザイナーの柳原さんが外から入ることによって、新しいものづくりの仕組みをつくり、これまでになかった発信をしていこうというものだった。一方で多治見の可能性とは、アーカイブをいかに能動的につくりあげ、産業に還元していけるかということではないだろうか。唯一無二のアーカイブをつくるだけでなく、その先を見つめて描き出すことで、多治見の新たなる道も見えてくるようにも思うのだ。

アーカイブとは内容の充実もさることながら、いかに現在に、そしてこれからに役立てることができるかにかかっている。
ものづくりの新しいあり方や仕組みに取り組んでいくことも大切だが、アーカイブのあり方を探ることも重要となってくるだろう。愛情と根気を持って着実に収集を行う安藤さんのような存在があって成立するアーカイブの持つさらなる可能性は、中村さんのような外からの視点と共同で開催されたプレ展示や、それが契機になったまちあるきなど新たな取り組みから仄めかされるようでもある。
多治見の来年以降に注目していきたい。

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TAJIMI KASAHARA TILE MUSEUM FOUNDATION 一般財団法人 たじみ・笠原タイル館
https://www.facebook.com/mosaic.tile.museum?fref=photo

多治見市モザイクタイルミュージアム応援サイト
http://tmtm28.com

(参考文献)
『日本陶磁大系 全28巻 民窯[第27巻]』(岡村吉右衛門 / 平凡社)、『多治見市史 通史編 上』(多治見市役所)、『炎と土の綾なす装い 美濃焼タイルのあゆみ』(和木康光 / (一財)たじみ・笠原タイル館)、『昭和レトロタイル 本と博物館の予告編 展』(モザイク浪漫館監修 / (一財)たじみ・笠原タイル館)、『モザイクタイルミュージアム』リーフレット(多治見市役所経済部産業観光課 産業観光グループ)、『GA JAPAN 131号』(ADAエディタトーキョー)

文:榊原充大
建築家、リサーチャー、京都精華大学非常勤講師。1984年愛知県生まれ。建築等に関する取材執筆、物件活用提案、調査成果物やアーカイブシステムの構築など、編集を軸にした事業を行う。2008年、より多くの人が日常的に都市や建築へ関わるチャンネルを増やすことをねらいとし、建築リサーチ組織RADを共同で開始。同組織では主として調査と編集を責任担当。寄稿書籍に『レム・コールハースは何を変えたのか』(2014)。

写真:黑田菜月
写真家。1988年東京都生まれ。2011年中央大学総合政策学部卒業。大学在学中より作品制作を開始。2013年、第8回写真「1_WALL」グランプリ受賞。個展に「けはいをひめてる」(2014年、ガーディアン・ガーデン)「その家のはなし」(2015年、ON READING)「ファンシー・フライト」(2015年、東塔堂)。