アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#39
2016.03

「伝える言葉」をさぐる 「ただようまなびや」の取り組み

後編 想像力を引き出すために
7)日本を書いて、同時代の世界を書く

「ただようまなびや」の主催者を務める一方、いうまでもなく古川日出男は作家である。感情を発露し、認識と思考を用い、想像力を駆使して小説を書いていく、それが表現者としての彼の仕事である。

「こうやって震災があって、福島のことを思いながら、俺がずうっと考えているのは日本のことなんですよね。日本という国がどういうものだったか、平安時代くらいまで遡ってみても、ある意味変わらなさというのがある。天災だけじゃなくて、空襲のような人災でもたびたび壊滅して、その都度まっさらにしてしまうという。欧米文化のような300年単位のシステムとかじゃなくて、本当に30年の視野でしか動かない。今起きていることも初めてではなくて、繰り返し繰り返し続いているという意識が、僕のなかではすごく強い。
福島のことは当然見続けますし、日本で起きてきたことも考え続ける。でもそれは、世界で起きていることを考えるということだろうなあって。並列で考えたいと思う」。

つまり古川が創作活動のひとつとして目指すのは、国や文化を超越した同時代性なのだろう。情報、金、そしてひとなどの流出入が激しい現代にあって、日本を含め多くの国が様々な局面で共有する時代を我々は生きている。今という時代をともに過ごすなかで、国や文化を超え、人々が何を考え、苦しみ、願い、喜びを見出すのかを作品で問うていくことで、普遍性を模索していると思える。
と同時に、これだけボーダレスな時代にいると、自分がどこから来て、現在どこに立ち位置があり、どの方向へ向かうのかを見定めるのはますます困難になりつつある。生まれ育った日本という国のなかで、社会環境やそこにいる人々の営みを観察しながら、アイデンティティとは何かと自身に問いかけ、人間としての存在意義を確かめているようにも見受けられる。
震災で被害を受けた故郷へ思いを募らせたときも、こうしたアイデンティティを呼びさます機会となった。30年あまり住まいは東京におく古川だが、この惨事は遠い過去の自身のイメージがよみがえるきっかけを与えた。

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