アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#39
2016.03

「伝える言葉」をさぐる 「ただようまなびや」の取り組み

後編 想像力を引き出すために
5)ものの見方を教える場所

「自分もひとりの人間、何かの一員に戻れる場ではあります」
「ただようまなびや」で参加者たちとの邂逅やふれあいを、古川はそんなふうに話す。

「小説を書くというのは、何かに所属したりすることから離脱する行為なんですよ。それは必要だからやっているわけだけど、すると『小説家は偉い』とかになっちゃうんだけど、そうではなくて生徒と交わったとき、俺も一員だからって、彼らと同じところに戻ってこられる。そこで気づかされることが大きいんです。1年目は、たとえば作家になりたいから来たひともいたけれど、昨年(2014年)岩手で分校をやったときから、『何とか志望』じゃないひとが参加する率が高くなって、これはよかったですね。具体的な書くスキルじゃなくて、我々が教えようとしているのは、あくまでものの見方なんです。いろんな見方があると知ることが、どんなひとの人生にも実生活にも役に立つと思う」。

「ただようまなびや」で学ぶ「ものの見方」とは、どこに着目するようにと指南されることではない。どのように観点に立つかは、参加者それぞれの考えや感性に委ねられている。ほかの学びの場ではあまり見かけないこうした教育を求め、福島県外からはるばるやって来る参加者のほうが多いと言う。

「参加応募をすること自体が、なにかふつうとは違う衝動っていうか、モチベーションを持っていると思うんですよ。受講は無料の学校だけど、定員になったら締めちゃうので、みんな必死になって講義に申し込む。県外から時間を捻出して、お金を捻出して来る、それでも受けたいって。やっぱり何かがあってもやもやとしているから、ここで講義を受ければ、表現するための言葉が見つけられるんじゃないかと思う。その熱の度合いが高いんじゃないかと思いますね」。

心の奥でもやもやとして、何とかそれを言葉で表したいと願うひとたちと、震災直後に絶句し、言葉で言い尽くせなかった古川を筆頭にした表現者たちにより、互いにリスペクトを抱きあうことで、幸福なマッチングがここ郡山の地で繰り広げられる。
とはいっても、馴れ合いの関係ではない。震災以降に個々が日本という社会のなかでどう生きていくのか、その問題提示にも古川は取り組む。

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11月29日(日)のプログラムより(その2)。(上2点)レアード・ハント「英語で物語を書く」。「これを元に物語を書きたい」という写真や絵を持ちより、英語の小さな物語をつくった / (中2点)川上未映子「耳と目で読む「たけくらべ」」。原文と川上訳を音と文字で体験し、印象的な一文を現代語訳した / (下)豊崎由美「小説の声に応えてみる」(ゲスト・三浦直之)。課題本をもとに批評を書き、参加者全員で合評した。また、劇団「ロロ」主宰の三浦直之が課題文をもとにひとり芝居を演じた

11月29日(日)のプログラムより(その2)。(上2点)レアード・ハント「英語で物語を書く」。「これを元に物語を書きたい」という写真や絵を持ちより、英語の小さな物語をつくった / (中2点)川上未映子「耳と目で読む「たけくらべ」」。原文と川上訳を音と文字で体験し、印象的な一文を現代語訳した / (下)豊崎由美「小説の声に応えてみる」(ゲスト・三浦直之)。課題本をもとに批評を書き、参加者全員で合評した。また、劇団「ロロ」主宰の三浦直之が課題文をもとにひとり芝居を演じた