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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#31
2016.07

「一点もの的手づくり」の今

後編:RYOTA MURAKAMI オカンとファッション
7)ファッションの裾野を広げたい

亮太さんは千明さんに、デザイン画だけでなく、ニットの小物やパーツなどを何十枚とお願いすることもある。たとえばサクランボ編んで、などと依頼すると、あっという間に編み上がったものたちが、お菓子の入っている箱などに詰め込まれ、送られてくるという。お菓子と小物と手紙が同じ箱のなかにあるのは、なかなか素敵な光景だ。

——(千明さんは)自分は手づくりなんかしてなかった、手づくりなんて好きじゃない、とかよく言うんですけど、そんなこと全然なくって。
最近も増えつつありますね。僕が頼んでいないときにも自分でいろいろ編んだりしていて、全く意味がわからない。たとえば「新聞紙カバー」というのか、読み終えた新聞を束ねたのを入れる袋みたいな謎のアイテムをつくってて。怪しい刺繍がされてて、ニットで編んだモチーフみたいなのもいっぱいついてるんですけど、けっこう衝撃でしたね。あと、ゴミ箱に絵を描いたりも最近してますよ。家に植木鉢みたいなゴミ箱があるなと思っていたら、イルカとか虹とか花とか、帰るたびに絵が増えてるんです。ゴミ箱だけじゃなくて名刺ケースとか、持ち物にも絵を描きまくってて。

編んだ小物もお菓子もだいぶ減ったが、この状態で送られてくる

編んだ小物もお菓子もだいぶ減ったが、この状態で送られてくる

千明さんのやっていることは、いわゆる「オカンアート」だ。亮太さんは「ここのがっこう」に通っているとき、千明さんのつくっていたものは何かを調べるうちに、「オカンアート」を知って、これかと思ったという。
「オカンアート」とは“主に中高年の主婦(=オカン)が、余暇を利用して創作する自宅装飾用芸術作品の総称”とされている。千明さんがつくるような、ドアノブにかかるオリジナルキャラクターや、刺繍やニットのモチーフをつけた新聞紙カバーなどが、まさにそれに当たる。誰かに見られることを期待しない、売って利益を得ることが目的でもない、つくりたいからつくる、純粋な趣味のものだ。2011年には、神戸の長田地区で、喫茶店や美容院などで見かけるオカンアートに注目した「下町レトロ首ったけの会」が自費出版の書籍『おかんアート』を刊行し、話題にもなった。
オカンアート的なものづくりにはいくつも特徴があるが、何より大きいのは、大量に、さまざまなものをつくってしまうという「熱量」と、経済活動ではない、あくまで「暇つぶしであり趣味」というところだろう。
RYOTA MURAKAMIは、千明さんの「オカンアート」を表現としてファッションに生かし、社会とつなげたところが新鮮だった。

——デビュー以来、オカンの絵やつくるものを全面に押したやり方をしてますけど、最初だったということもありますし、もっと知ってもらいたい、見てもらいたいというのもあって、わりと過剰な表現をしてきたんです。
ただ、ファッションとオカンのつくるものって遠いところにあるとされてると思うんですけど、僕はどっちも好きっていうか。パリコレとかのファッションも好きですし、オカンアートにもすごいファッション性を感じるというか、こういうファッションがあってもいいよね、と。
オカンアートをそのまま出してしまえば、それはそれで純度の高いものかもしれないんですけど、理解されにくい部分もあると思っていて。ファッションとつなげるために、あえてシェイプを入れたりとか、ハードな素材を使ったりすることもあります。付け足しはそんなにないですけど、こういう素材を使ってみようかな、とか。

亮太さんは、千明さんの個性をできるかぎり引き出し、より多くのひとたちに伝えることをしているのだ。かつての自分がそうであったように、ファッションは非常に狭いところで捉えられがちだけれど、決してそうではない。多くのひとが楽しめるものであっていいはずだ。亮太さんはその考えを深めていったのである。

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千明さんの“オカン的感性”をファッションにする

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