アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#26
2015.02

とつとつとした点描−美術家・伊達伸明さんの仕事

前編 多様な作品を俯瞰する
2)目に見える表面から隠された背景を知りたい

伊達さんには学生時代、デザインコンペに取り組む他、現在まで続くライフワークとして始めたことがある。カメラを使った、まちのディテールの収集活動だ。電柱保護板につけられた車が擦った痕跡や、建築物の外装面に使われる波板材を街中で見つけては撮りためていくというもの。この取り組みは、「表面」に対する伊達さんの愛好から生まれたもので、どちらの取り組みも現在も継続して行われている。

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(上3点)電柱に残る車のこすれ跡。京都市の中心部で撮影した。ディテール収集活動としては、最も早く始めたもの(下3点)国内外で撮りためている波板。下2点目は仙台で、下1点目は大阪市内で収集。絣やドット柄のようにも見え、なんとも趣がある

(上3点)電柱に残る車のこすれ跡。京都市の中心部で撮影した。ディテール収集活動としては、最も早く始めたもの(下3点)国内外で撮りためている波板。下2点目は仙台で、下1点目は大阪市内で収集。絣やドット柄のようにも見え、なんとも趣がある

伊達さんが漆というものの表面を覆う素材を専門に扱っていたという背景も手伝っているのかもしれない。この取り組みの裏にある思いをこう語ってくれた。

———目に見えている表面の陰に隠れた背景を知りたい、という思いからやってます。波板については錆の本を読んだり、工場に行ったり、いろいろ調べたりもしましたね。雨風や日照、重力、付着物などの外的要因と素材の劣化による内的要因とが複雑に組み合わさって無限の表情を醸し出してるんですが、たくさん見過ぎたせいで頭のなかで類型化してしまってて、もうめったに「新種」にはお目にかかれなくなりました。

波板は安価な素材であり、また建築の専門家でなくとも簡単に外壁の補修箇所などに貼り付けられる、いわば手軽な素材だ。それゆえに波板は、表立って多くのひとに見られる部分には好んで使われない。取り立ててひとが意識しないものを見ていくこと。それは波板のみならず、電柱保護板につけられた傷跡も同様だろう。そしてそれがどのようにして生まれたのか、という「背景」を知ろうとすること。これらの活動の裏にある伊達さんの思いは、「見捨てられているものを見直す」という先の話につながっている。

楽器制作のかたわら、伊達さんは外へ出てまちの「表面」をカメラという四角いフレームによって切り取り収集するということを続けていた。ではここでもう一度、伊達さんの「音」のプロジェクトの変遷へと目を向けていこう。