アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#25
2015.01

工芸と三谷龍二

後編 生活工芸から、その先へ
5)クラフトフェアとの新しい関わり2
六九クラフトストリート

2011年も「クラフトフェアまつもと」は開催された。フェアを訪れる多くの人びとが、オープンしたばかりの「10センチ」にも足を運んだ。昔ながらの面影を残す、雰囲気のある商店街で、三谷さんのかろやかなセンスがいっそう光る。スタートしてまもないうちに、「10センチ」は松本の新名所となっていた。松本のまちに、訪れる楽しみがもう少しあればいい、と思っていた三谷さんは、自らそれをつくってしまったのである。

ギャラリースペース「10センチ」。ノスタルジックな通りの、雰囲気ある空間だ

ギャラリースペース「10センチ」。ノスタルジックな通りの、雰囲気ある空間だ

「10センチ」を目指してひとが集まる。それを目の当たりにした商店街から、「10センチ」を起点に、六九商店街で何か新しいことができないか、と三谷さんに話がきた。まちのひとにも知られ、行政も力を入れるようになった「クラフトフェア」や「工芸の五月」は、工芸の裾野を広げるために大きな役割を果たした。裾野を広げないと、クオリティや質の向上も望めないからだ。ただ、三谷さんが気にかけたのは、誰にでもわかりやすい「まちおこし」の方向に膨れ上がって、動員数や経済効果など、工芸と無関係なところにどんどん進んでいってしまった現状だった。工芸がただの飾りのようになってしまったのではないか。経済と文化のバランスが崩れ、工芸のことを真剣に考え、見つめる「眼の不在」を強く感じるようになっていた。そこで、六九通りという限定されたエリアで、繋ぎ手の「選ぶ眼」を通した場をつくりたいと思い、付き合いのある作家やギャラリストなどに広く声をかけ、企画展とイベントの準備を始めたのだった。

‥‥‥六九クラフトストリートは、松本の六九通りの街並に三日間だけ各地のギャラリーが出張参加する企画です。日本では利休もそうですし、柳宗悦もそうでしたが、「作り手」だけではなく「強い眼」の存在が工芸の発展に大きな役割を果たしてきました。そこでクラフトフェアが作家中心であることから、それとは別にギャラリーという選者の眼を通した工芸が並ぶ場をもちたいと思いました。
五月の心地いい風の中、あがたの森へ行ったり、六九通りを歩いたり、工芸散歩を楽しんでいただけたらと思います。(「六九クラフトストリート」案内文より(2014年)

六九クラフトストリート2014
ディレクター / 三谷龍二
主催 / 六九クラフトストリート実行委員会
後援 / 六九商和会
協賛 / 良品計画、新潮社
■参加ギャラリー
ギャラリーやまほん(三重)・さる山(東京)・10センチ(長野)・古い道具(京都)・ミナ ペルホネン(長野)・新潮社(東京)
■参加飲食店
ゾンネブルーメ・ティールームコイデ・モンカヴァ・10センチ青空カフェ(オオヤコーヒ・atelier tatin・ポフトボナー)

2014年は、5つのギャラリーが三谷さんの声がけにより参加。それぞれ、六九通りにある個性的な建物を借りての限定ギャラリーを開いた。たとえば、伊賀のギャラリー「ギャラリーやまほん」は眼鏡屋だった空き店舗で、また古いものを扱う京都の「古い道具」は「花屋ことの葉」のなかで。2013年にこの通りに店をオープンした「ミナ ペルホネン」は、店の向かいの駐車スペースで開催した。また、「食べたり飲んだりできると、やっぱり楽しいよね」と、飲食ブースについても、各地から三谷さん選りすぐりの店やひとが参加した。数軒の店と数軒の飲食店の、ごくささやかだけれど、ヴァラエティがあって密度の濃い空間。品々も食べ物飲み物も、クオリティの高いものばかりだった。

会期中はどこも賑わっていたけれど、とりわけ「10センチ」には長い行列ができていた。フェアや催しというのは、規模の大小だけが大切なのではない。作家が参加するフェアに対して、つなぎ手をフィーチャーする「六九クラフトストリート」ができたことで、よりふくらみのある、魅力的なまちのすがたが立ち上がった。「10センチ」を構えたことで、商店街のひとたちとのつながりが生まれ、その信頼関係で一歩踏み込むことができたのだった。

「10センチ」での三谷さんの初個展「器の履歴書展」を開催。会期のあいだ、終日行列ができていた。駐車スペースには「10センチ青空カフェ」がオープンし、京都のオオヤコーヒや東京atelier tatinなどが出店し、和やかな雰囲気

「10センチ」での三谷さんの初個展「器の履歴書展」を開催。会期のあいだ、終日行列ができていた。駐車スペースには「10センチ青空カフェ」がオープンし、京都のオオヤコーヒや東京atelier tatinなどが出店し、和やかな雰囲気

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(上から)花屋を会場にしたのは、京都の骨董店「古い道具」 / 旧眼鏡店では伊賀の「ギャラリーやまほん」が端正な展示を。写真はガラスの津田清和さんの作品 / ファッションの「ミナ ペルホネン」は、店舗の向かいに特設スペースを設けて / 東京の「さる山」は、アパレルショップ「ラ・シェネガ松本」で、5人の作家をフィーチャーした

(上から)花屋を会場にしたのは、京都の骨董店「古い道具」 / 旧眼鏡店では伊賀の「ギャラリーやまほん」が端正な展示を。写真はガラスの津田清和さんの作品 / 東京の「さる山」は、アパレルショップ「ラ・シェネガ松本」で、5人の作家をフィーチャーした / ファッションの「ミナ ペルホネン」は、店舗の向かいに特設スペースを設けて