アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#40
2016.04

幸せに生活するためのデザイン  雲仙小浜から

前編 城谷耕生の仕事

1.  雲仙小浜、「刈水庵」という拠点

小浜町は、長崎市内・長崎空港からともに車で小一時間ほどのところにある。小高い丘を超えると、目の前には海が広がり、もうもうとあがる湯煙が迫ってくる。島原半島の西側にあり、穏やかな橘湾に面した温泉町は、のどかながら、ひなびた感じとはどこか違う。高温の湯量が豊富で、新鮮な魚介類でも知られた豊かな土地だからだろうか。
その小浜の中心から数分行くと、「刈水庵」がある。急な坂道をあがり、細い路地をゆく。清い水が流れる横で猫が寝ている。ノスタルジックな雰囲気に浸っていると、強い硫黄の匂いが鼻をつく。源泉が湧き出ているのだった。古き良き日本のイメージそのままのような場所なのである。
「刈水庵」は、城谷さんたちがこの刈水地区に開いたショップ兼カフェ。路地の奥に建つ、瓦屋根の古民家を改装したものだ。

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素朴な佇まいにふさわしく、中に入るとシンプルながらゆったりした空間が広がっている。1階のショップは、城谷さんが旅して見つけた道具や雑貨のほか、国内外の工芸作家の作品、城谷さんが手がけたプロダクトなどを扱う。2階のカフェは、ほっとするような居心地のよさに満ちている。窓の外に海が広がる空間に、60年代ごろの椅子やソファ、漆の机などが置かれ、気取りがない。

———椅子は銀行が閉店したときに使わなくなったものを譲り受けましたし、机も自分が持っていた韓国のです。あとは僕がつくったプロダクトとか。ここを始めるからといって、新しく買ったものはないんですよ。

城谷さんはデザイナーで、プロダクトも空間も、優れたデザインをよく知っている。けれど、この刈水庵は、いわゆるデザインにこだわったもので埋めつくしているわけでは全くない。城谷さんのプロダクトが置かれているからか、どことなくモダンだったりと、場の個性はあるけれど、“デザインへのこだわり”の対極にあるといっていい。

———ここは、地域に住んでいるひとたちに来てほしいんですよね。おばあちゃんたちに来てもらって、こんなふうに空き家使えるだなとか、これだったら自分でもできそうとか、そんなふうに思ってもらえるといいな、と。

イタリアで第一線のデザインの仕事をしていた城谷さんだからこそ、この発言は意外にも聞こえる。けれど、さまざまな経験を通して城谷さんがたどり着いたのは、生まれ育ったまちで、そこに住まうひとたちの生活が豊かになるようなデザイン活動であった。

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1階は入って右手(1番上)が国内外で買い集めたプロダクトや作家物中心で、左手(2番目)が城谷さんの手がけたプロダクト、及びイタリアで仕事を通じて交流のあったエンツォ・マーリのデザインしたものなどを置く。2階は海と山の両面が窓で、開放感あふれる。写真は海側の窓に向かって

1階は入って右手(1番上)が国内外で買い集めたプロダクトや作家物中心で、左手(2番目)が城谷さんの手がけたプロダクト、及びイタリアで仕事を通じて交流のあったエンツォ・マーリのデザインしたものなどを置く。2階は海と山の両面が窓で、開放感あふれる。写真は海側の窓に向かって