アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#21
2014.09

<ひと>と<もの>で光を呼び戻す 東京の下町

後編 愛着をもって、蔵前に根ざす
6)このまちの「粋」と、本当の「好き」を伝える
生活用品プロデューサー、デザイナー 宇南山加子さん

宇南山加子(うなやまますこ)さんは、鳥越おかず横丁の近くに「SyuRo」という日用雑貨の店を出している。台東デザイナーズビレッジの1期生、「m+」の村上さんとは同期で同志でもある。
「SyuRo」の商品は、宇南山さんがデザインし、地元や知り合いの職人が手を動かして生まれるオリジナルがほとんどだ。
指物師(さしものし)の腕を生かした木のガラガラは、手触りがやさしく、赤ん坊の小さな掌にすんなりとなじむ。近所の職人がこしらえる缶の入れものは、時が経つほどに味わい深くなる。建築用シートをリサイクルしたトートバッグは、洗ってカットして縫い上げてと手間もかかるが、重いものもしっかり運べる丈夫さが人気だ。

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(上から)リサイクルテントを使ったトートバッグ / 宇南山さんが製品デザインする「ダルマ糸」のボックスセット / 台東区の缶製造工場に頼んでつくってもらっている、オリジナルのブリキ缶。セレクトショップなどでも扱われる / 店頭のディスプレイ。古いものの組み合わせかたも絶妙だ

(上から)リサイクルテントを使ったトートバッグ / 宇南山さんが製品デザインする「ダルマ糸」のボックスセット / 台東区の缶製造工場に頼んでつくってもらっている、オリジナルのブリキ缶。セレクトショップなどでも扱われる / 店頭のディスプレイ。古いものの組み合わせかたも絶妙だ

ひとつひとつの製作背景を、ウェブサイトで、POP広告で、もちろん来店したお客に直接口で、伝え続けるのが、「SyuRo」の特徴だ。どんなきっかけでつくることにしたのか。どんなひとがつくっているのか。つくるうえで大切にしていることはどんなことか。それを使うことで、どんな喜びが生まれるのか。

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宇南山加子さん

ものには、それがつくられたときの誰かの思いが込められている。その、背景にある「モノがたり」を、使うひとにも伝えたい。こうしたストーリーが使うひとの心をほんのりとあたため、暮らしを豊かにしてくれることを、宇南山さんは知っている。

宇南山さんが伝えたいのは、ものの背景にとどまらない。蔵前というこの土地の背景も、多くのひとに理解してほしいと願っている。地元のひとたちにとって1年で一番待ち遠しいのが鳥越祭だ。江戸時代から続く鳥越神社の祭礼で、威勢の良しかけ声とともにきらびやかな神輿(みこし))がまちを練り歩く。
お祭の日、宇南山さんは倉庫として使っている建物を取引先のひとたちや知人に開放し、酒屋からビアサーバーを借りてきて、お酒やごちそうを振る舞う。
「『鳥越祭りのビール消費量はSyuRoさんがダントツだよ』って、酒屋さんが驚いていました」と宇南山さんが笑う。

———大勢のひとがこの日を楽しみにしてくれているんですよ。よかったら、今度の鳥越祭には来てくださいね。鳥越の御神輿を担ぎたかったら、ぜひ。もちろんわたしも担ぎます。

宇南山さんは、台東区生まれ台東区育ち。生活雑貨の学校を出た後、照明メーカー、フラワースタイリストのアシスタントを経て、「SyuRo」を立ち上げ、地場産業を生かした生活用品をプロデュースするようになる。
鳥越に店を構えたきっかけは、知人に地元のことを「土臭いところでしょう」と言われたことだった。

———何気ない一言でしたが、そう言われたのが悔しくて。このまちの本当の良さを伝えたかった。

子どものころ、友達の家にあがりこんでは、活版印刷機の脇でかくれんぼしたり、端材をつなげて遊んだりした。10代の頃から12年間は、浅草にある老舗のすきやき屋でアルバイトをした。そこのご主人が折々に聞かせてくれた話は、宇南山さんにとって豊かな糧となった。

———ご主人はたとえば、どうして浅草のまちが発展したか、という話をするんです。昔は若旦那が吉原を訪れて、お客さんや女の子たちに豪勢にふるまった。そのお金のおかげでまちは潤い、江戸文化が発展したのだ、と。

自分の働いたお金を人様のために使うことが粋だった、そういう文化がこの土地にはあった。その土地を「土臭い」と言ってほしくはない。本当の心意気を知ってもらいたい。そう思うからこそ、宇南山さんはこの地に根を張り続ける。

———まちが好きになったら、そこにいるひとが好きになる。そうしたら、そのまちやひとを生かすことがしたくなるでしょう。ものもひともまちも、自分が本当に素敵と思ったもの、いいと思ったものを大切にしたい。そして自分が本当にいいと思うものは、誰かに伝えなきゃ、と思うんです。それを素敵だと思うひとが必ずいるはずだから。自分だけの「好き」を知ることができれば、そのひとを豊かにしてくれるはずだから。

いいものをつくること、ものの良さを伝えること。それは彼女の「ここが好き」という原動力に貫かれている。それがひいては自分の好きなこのまちを豊かに潤すことを、宇南山さんはそっと願っているのだ。

天井には酉の市の熊手が

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