アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#19
2014.07

場の音、音の場

後編 梅田哲也×細馬宏通対談 音とその周辺
1)待って、時間を過ごしてわかること

細馬 梅田くんの展覧会や企画に行くときは、大体1日空けないと、ぐらいの感じがあるんだよね。ふつう展覧会を観に行くときは、たぶんそこにはいくつかの作品があるんだろうと予測しているし、それが絵画やオブジェならまあひとつせいぜい5分くらいで鑑賞できる。つまり会場に行って5分後には“報われた”りする。ビデオや体験型の展示なら、入口に所要時間が書いてあるから、あ、これなら今見れるなとか、こっちは長すぎるから今回はあきらめようとか、そういう思慮も働く。
でも、梅田くんのやってることは、そこでどれくらい待っていたら「事」が起こるのかわからない作品がけっこうあって。しかもその「事」ってのがなんなのかも予測つかないから「もしかして見逃した?」と思うことすらある。すぐには報われないというか、報われるか報われないかすらわからないままだったりもする。それをいちばん極端なかたちで感じたのが、京都の木屋町にあるLABORATORYというオルタナティブスペースでやった「オールナイト梅田哲也」だった。

梅田 真っ暗な。『デッドストック』*1ですね。

細馬 僕も歌ったり話したりしたので半ば出演者だったんだけれど。どの演目も割とゆるやかで、これを観なくちゃ、という強制力はあまり感じなかったんだよね。夜明かしをするためのテンションの高い企画があるわけでもなく、かといって他に行くところもないので、トークや音楽を聞いたり映画を観たりでぼんやりした後、もう外が明るくなったころに、梅田くんが「最後に『サンデー・モーニング』を歌います」って言った。それで客も出演者も狭いスペースに集まって、鉄琴かなんかを誰かが叩いてみんなで『サンデー・モーニング』を歌ったんだけど、あの時間があまりに素晴らしかった。『サンデー・モーニング』はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの、どうにも報われなかった日々の果てにやってくる日曜の朝の歌なんだけど、その、土曜日を完全に台無しにした後にやってくる日曜の朝の感じがありありと体感できて、あ、このために僕はここにいたのか、って気づいた。前日の夕方から8時間か9時間のスパンで付き合って、ようやく報われると思ったら、この歌かって。あの時間の長さに呆れ果てたね。

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『デッドストック』会場で、1日のうち数回点灯された瞬間(撮影:松尾宇人)

梅田 あのころ、よくまったく踊れないオールナイトをやってましたね。しかもあの日は会場が真っ暗だから、出演者の顔も見ることができない。お客同士も、互いの距離感もよくわからない。そんななかで、江崎さん*2が、お客さんと一緒にひらがなを一文字ずつ読み上げるような、何を目的にしてるかわからない、細馬さんの言い方を借りると、報われないような演目を、延々とやりましたよね。でも、あれは展示があったからやれたことで。展示で鳴っている音は変化してるし、ごくごく稀に会場が一瞬だけパッと明るくなるような仕掛けもありましたから。

細馬 そうそう、その明るくなったときだけ、どういう仕掛けで音が鳴ってるのかわかるんだよね。それからまた暗くなっちゃうんだけど、いったん仕掛けを見た後では、あ、たぶんあの滑車からものがだんだん上がったり下がったりしてるなとか、いまスイッチみたいなやつが入ったなとか、音の喚起する視覚イメージが変わって感じられる。そういうところも面白かったな。これまた、30分とか40分とか、けっこう長いスパンのできごとなんだけど。
報われないということでは、梅田くんが神戸でやった『大きなことを小さくみせる』*3もそうだったな。事が起こるのを待ちきれなくて、作品の前から立ち去るひとが何人もいたよ。実はずっと待っていると、ゴトゴトゴトって巨大なオブジェが動き出すんだけどね。それも、おおスペクタクル、というような派手な動きじゃなくて、ちょっと不穏な感じで、そこがよかった。何か、人智ではどうにもならない、装置自身の論理によって動いているように見えてね。

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(上)エントランスの水銀灯が降下するのに合わせて休憩スペースを転がる大時計 (下)地下上映シアターにおける劇場型のインスタレーション(撮影2点とも:松尾宇人)

梅田 あの後に東京で『待合室』*4という展示をやって。それは何も動かないんですよ。画廊にもともとある蛍光灯なども含めて、電力をまったく使っていないんです。そしたら、わりとこれまでの僕の作品を知ってるような若いお客さんが待っちゃって。

細馬 『待合室』だし。

梅田 そう。待ってれば何か起こるだろうって。『待合室』は、モノが動かない代わりに、水道管が結露して、そこから水が漏れていて。ほんとは漏れてるんじゃなくて、管の1ヵ所を分岐して延長してるんですよね。あと、1ヵ所だけアルコールが垂れているところがあって、そこでは小さな火が燃えつづけている。でも大きな変化は起こらないし、今話したような部分も一見したところではわかりづらい。水道管なんてもともと見えてるものだし。

細馬 30分くらい居て待っても、何も起こらない。それはそれで良い体験のような気もするけど、梅田くんとしては、長いこと居てもらおうというつもりはなかったの。

梅田 もちろんあります。どう足止めするか、ということは常に考えますし、はっきり自覚するところまでいかなくとも、時間を過ごすことで副作用的に得られる体験は必ずありますからね。

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『待合室』の展示光景(撮影:松尾宇人)

*1デッドストック 2010年6月9日(水)~6月21日(月)16時~23時 / LABORATORY(京都)/ 暗転のなか、天井の梁や屋根裏に施された音の仕掛けが作動。1日のうちに数回、点灯の瞬間が訪れる。関連イベントの「オールナイト梅田哲也」は2010年6月12日(土)21時~夜明けまで開催。ゲストに江崎將史、細馬宏通、遠藤水城など。

*2江崎さん 江崎將史。神戸在住の音楽家、トランペット奏者。POPOなどにおけるバンド活動のほか、国内外の多くのミュージシャンとセッションを重ねる。前編に登場したアキビンオオケストラも主宰する。

*3大きなことを小さくみせる 開催期間:2011年11月12日(土)~12月4日(日)/ 会場:神戸アートビレッジセンター(兵庫)/ カタログ&DVD「大きなことを小さくみせる」もリリースされた。

*4待合室 2012年2月7日(火)〜3月15日(木)/ OTA FINE ARTS TOKYO(東京)