アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#15
2014.03

ひらかれた、豊かな<場>をつくるために

後編 淡路島・ノマド村
6)地域との関わり4 「はたらくカタチ研究島」の成果とこれから

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2012年4月、ようやく「はたらくカタチ研究島」はスタートすることになった。
事業を企画するにあたって、気をつけていたことがいくつかあった。島内だけでなく島外とのネットワークを創り出すこと、そのためにできるだけ全国で活躍するような講師を呼んだ。また、とりわけgrafの服部さんがスーパーバイザーになったことは大きく、デザインや編集の力を重視する内容となった。
特徴的なのは、「はたらくカタチ研究島」では個別の研究会を設け、そこでさまざまな問題解決の糸口を探るという仕組みをとったことだ。2012年から2103年にかけて開催されたものを見てみると、「畑の商品を考える研究会」「淡路島のジビエを考える研究会」「泊まりたくなる宿研究会」といった具体的な商品開発や観光開発を目指すものが多い。研究会の効果を平松さんはこのように述べる。

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(上)淡路島のジビエを考える研究会のようす(下)ツアーを販売する研究会。“淡路島らしい”ツアーの開発と販売するためのスキルを学んだ(写真提供:淡路はたらくカタチ研究島)

———僕らの目的は、雇用が何人生まれたとか数字に見えるところだけにあるわけじゃなくて、研究会を通じていろんなつながりをつくることの方が大きいんです。
1年目はチラシをまいたり、島内のがんばっている企業さんに声をかけたりして、参加者を募りました。僕たちのネットワークがなかった農林業や漁業関係、観光関係は県から声をかけてもらいました。そうやって今までつながりがなかったところと関係をつくっていったんです。

また研究会のなかには、仕事おこしや雇用には直接つながらないような、デザイナーや編集者を講師に迎えた「私から考えるデザイン研究会」や「ツアークリエイターになる研究会」といったデザイン力や企画力を養おうとするものもある。これら研究会について、茂木さんは次のように言う。

———ひとにアピールするためには魅力がいるから、商品自体の質が高いだけじゃだめで、ビジュアル的に洗練されたものをつくる必要がある。それだけじゃなくてデザインっていうのは、問題を整理したりムダのないかたちにして、解決するためのツールとしても使える。

つまり商品の見せ方や売れる仕組みづくりに役立つ考え方の基礎となるのは、「デザイン」や「編集」の力だというのだ。たとえば、今年で2年目になる「ツレヅレツーリズム」という研究会がある。これは2012年から2013年に行われた「ツアー販売スタッフになる研究会」が発展したものだ。観光名所を回るといった従来の“場所”を中心とした旅行ではなく、「ツレ(友達)のツレ(友達)を案内する」という「人の関係性」からデザインされた旅行をコンセプトに、地元のひとの御用達のソウルフードを訪ねたり、海苔や魚の生産現場を訪ねるツアーを行うという。
従来のパッケージングされた観光コースに飽きたひとたちを惹きつけるためには、新たな観光地をつくる必要がある。しかし、地元が従来持っている魅力を引き出すことで十分に観光資源になる。それをツアーというかたちに整え、宣伝するときに、デザインや編集の力が大切になってくる。こういった仕組み自体が評価され、2013年12月には経済産業省の「グッドデザイン・地域づくりデザイン賞」を受賞した。
「はたらくカタチ研究島」は一定の成果を出し県の協力も得られるようになったものの、そののち、厚生労働省から事業に対する異論が挟まれた。曰く、雇用事業でものづくりをしてはいけない、デザイナーやライターにお金をかける必要はない、と。
大企業や工場を誘致して、そこに就職させるような従来のような方法では島にひとが残らない。だからこそ、今までとは違うかたちの仕組みをつくったのに、事業の根本的な部分が否定されている。そのことに茂木さんは疑問を抱く。
それは「はたらくカタチ研究島」だけの問題ではなく、行政、ひいては日本という国全体に共通する問題なのかもしれないと茂木さんは考える。行政にとってはアートもデザインも、生活や暮らしに関わりをもつものではなく、観光振興や文化事業によるイメージアップのためのツールでしかないのではないだろうか。アートもアーティストもツールとしてなら歓迎されるが、社会問題に対してコミットしようとしたとたんにストップがかかる。移住して2年目に起こった東日本大震災で、関東からの一時避難者をノマド村で受け入れたときもそうだった。
茂木さんには、せっかく縁あって住んだ場所を良くしたいという気持ちがあって関わっている。それゆえに、うまくいかない歯がゆさも同じくらい感じている。

———社会に矛盾があったら、そのことを指摘できる社会であってほしいから、言う強さは大事だなと思うし、実際に言うようにしている。(略)最初は失礼なやつだと思われるかもしれませんが、言っているうちに浸透してきて、徐々に味方も増えてくると思うんです。

日本では、こうした発言が残念ながら行政にはなかなか届かない。しかし、茂木さんのように諦めずに声を上げ続け、少しずつでも状況を変えていくことは、大変な困難を伴うが不可能ではないのだ。多大なエネルギーを使ってきた茂木さんは、もういいやと思うときがないわけではない。しかし、ノマド村に居るかぎり、声は上げ続けていくのだと思う。自分たちが納得して、気持ちよく暮らしていくために。

Unknown

「ツアー販売スタッフになる研究会」のツーリズムテーマ。“淡路島で暮らすカタチ”をめざし「人の関係性から旅行をデザインする」「淡路島をもう一つの地元にする」をキーワードに、行く先々で出会ったひとたちのおススメに身を委ねていく観光スタイルをとった(写真提供:淡路はたらくカタチ研究島)

「ツアー販売スタッフになる研究会」のツーリズムテーマ。“淡路島で暮らすカタチ”をめざし「人の関係性から旅行をデザインする」「淡路島をもう一つの地元にする」をキーワードに、行く先々で出会ったひとたちのおススメに身を委ねていく観光スタイルをとった(写真提供:淡路はたらくカタチ研究島)