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アネモメトリ -風の手帖-

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#15
2014.03

ひらかれた、豊かな<場>をつくるために

後編 淡路島・ノマド村
1)淡路島に生まれたコミュニティ・スペース兼住居、
ノマド村
見晴らしのよい場所にある

見晴らしのよい場所にある

「ノマド村」は、写真家で映像作家の茂木綾子さん、茂木さんのパートナーでドイツ人映像作家のヴェルナー・ペンツェルさん、彫刻家の南野佳英さんらによるコミュニティ・スペースである。
拠点とするのは、淡路島北部の長澤という集落にある小さな廃校跡。明石海峡大橋を渡って海沿いの道から棚田が続く山道を上ること数十分、ぽっかりと開けた高台にある。細長くなっている島の北部では山あいからでも見晴らしがよく、瀬戸内海が見える。茂木さんら三人はこの廃校に住み、地域のコミュニティースペースにもなっているカフェを運営しながら、制作活動をしている。
校舎や校庭はほとんど小学校のころのままだが、中心となる1階のカフェスペースは、元は校長室と職員室だったと想像できないほど、見事にリノベーションされている。室内には木がふんだんに使われており、部屋を仕切っていた壁は一部を残して取り払われ、そのうえから地元の土を素材に使った土壁が塗られている。淡路島出身の左官職人・久住有生(くずみなおき))さんの指導のもと、ワークショップを開き、参加者みんなで塗った。木と土のあたたかな感じとコンクリートがむき出しになっている天井の無機質な感じは意外な組み合わせに思えるが、不思議と調和の取れた、和洋折衷の空間になっている。
土日になると、地元野菜をふんだんに使ったランチや手づくりのケーキを目当てに大勢のひとでにぎわう。カフェのなかにはショップが設けられており、そこでは淡路島の作家の洋服や陶器、地元産の野菜などが販売されている。また、茂木さんたちがこれまで淡路島内外で出会ったクリエイターやアーティストを招いて、ライブや展覧会、料理教室が開かれたり、茂木さんや南野さんら「ノマド村」メンバーの作品展が行われることもある。
ノマド村には、島内外から雑誌やインターネットで評判を知ったお客さんがやって来る観光スポット、地元のひとが帰省したお孫さんを連れてコーヒーを飲みにくるような地域の憩いの場と、いろんな顔がある。それに加えて、茂木さんたちの生活の場であり制作活動の場といった顔もある。

オフィススペースとして使っている2階のスペース

オフィススペースとして使っている2階のスペース

廃校を拠点としているのには、理由がある。ノマド村のある淡路市では、学校の統合によって廃校になる小学校が増え、その活用を模索していた。一方、当時はスイスに住み、淡路島で制作スペースやオフィスにも使える移住先を探していた茂木さんは、淡路市より紹介された廃校を見て、「古民家よりも広いし、アトリエもオフィスも兼ねられるからいいかな」と、廃校に絞って物件を探し、いくつか見て回ったうち、規模が手頃で土地が気に入った長澤に決めた。
ところで、廃校に住むのというはどんな感じなのだろう。オフィスや生活スペースを覗くと、黒板やつくりつけの棚といった教室の名残がある広めの部屋に、私物や仕事道具が置かれていてる。天井が高くて窓が大きいので、日当りがいい。作業したり住むにはかえって便利で居心地がよさそうにも感じられる。茂木さん自身も「家はこうじゃないといけないという固定観念があまりないのかもしれない」と廃校に住むことをあまり特別なことだと捉えているようすはない。
それにしても「ノマド村」とは不思議な名前だ。「ノマド」にはそもそもは「遊牧民」や「流浪の民」という意味がある。「定住」し、階層的で秩序だった社会である「村」とは相反する。それは一体どういうことなのだろう。その原点となるのが、ヴェルナーさんが始めたLaboratoire Village Nomade(ラボラトワール・ヴィラージュ・ノマド)のスイスでの4年間の活動だ。

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学校の名残が各所に感じられる。そこに違和感なく、茂木さんやヴェルナーさんたちの思考やライフスタイルが溶けこんで、どこか懐かしくも新しい独特な空間となっている

学校の名残が各所に感じられる。そこに違和感なく、茂木さんやヴェルナーさんたちの思考やライフスタイルが溶けこんで、どこか懐かしくも新しい独特な空間となっている