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アネモメトリ -風の手帖-

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#14
2014.02

ひらかれた、豊かな<場>をつくるために

前編 京都・Social Kitchen
 9)続ける意味と理由

2013年12月21日、S・K2階のマルチスペースには入り切らないほどのひとがつめかけ、目の前で繰り広げられるできごとに見入っていた。「OYE(オイ!)」プロジェクトのクロージングイベントとして行われた、hyslomと音楽家・藤田陽介のライブパフォーマンスである。
「OYE(オイ!)」プロジェクトとしては最後、第5回目のhyslom 展覧会「◯◯さんへ覚え書き -Good Wood Family-」の関連企画で、タイトルは「物理と超常現象」。音楽家・藤田陽介とのコラボレーションである。
展覧会で展示した、hyslomが定期的に通う“場所”で集めた木に、3人が登ったりサーフィンのように乗ったり、身体をさまざまに使いながら、木に絡んでいく。木との“交信”は痛そうで苦しそうで、そして楽しそうで、時に可笑しい。彼らの真剣な、身体を使った“遊び”と、藤田陽介のシャーマン的な声や打楽器、パイプオルガンのような自作の楽器の不思議な音が相まって、観ている側の身体にも響いてくる。彼らの身ぶりを通して、身体の記憶が呼び覚まされ、太古の昔にまで遡っていくかのような、奇妙な時空間が生まれていた。

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hyslomと藤田陽介のライブパフォーマンス

終了してからは、1階のカフェでクロージングのパーティーが開かれた。2階から降りた観客が1階にそのままとどまり、あちらこちらでおしゃべりに花を咲かせている。ざわざわとさざめく会場は、ギャラリーのオープニングやクロージングというよりは、イタリアなどの広場に人々が集って、立ったままいつまでも話し込んでいる風景を思い起こさせた。
この日はキッチンでhanareメンバーが飲み物を用意する傍らで、出張喫茶の「文九」が珈琲や日本酒、おつまみを出していた。hanareメンバーの知人がつくってくれたという、S・K自慢の移動式屋台がしっくりはまっている。

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こんな光景を見ていると、S・Kはいいところだなあとあらためて思う。個人的にもワークショップやイベントで使わせてもらったり、客としてイベントやライブに来たりもしているが、さまざまに使われるたびに、場にいい味がついてきたように思うのだ。
「これまでやってこられたのは、利用者のおかげ」そう言って、高橋さんと須川さんがうなずき合う。「わたしたちだけでやっていたら、今のような多様性は生まれなかった。良い方たちに使っていただいて、場が育ってきたよね」。
hanareの3人は、市民の日常のための場所としてS・Kをつくった。こんなふうにありたいという理想はあっても、決して着地点を定めているわけではない。ものごとの過程で起こるあれこれを受けとめ、先のわからない道を、手探りで進んでいくこと。このプロセス自体がS・Kそのものなのではないだろうか。
ただ、「続けるために続ける気はない」とふたりは言う。「利用者の方が使いたいと思ってくれて、わたしたちがやりたいと思うことがあるうちは続けようと思います」。

最後に、S・Kのサイトより、「サバイバル」プロジェクトの最後の言葉を抜き書きしておく。

Social Kitchenという小さな実践や、この社会のことを一緒に考え、一緒に動いください。
Social Kitchenのような場所が回っていく経済の仕組みを一緒に考えてください。
Social Kitchenをたくさん利用してください。そして賑やかな場にしてください。
お金のある方は、寄付をお願いします。また、税金的な考えの導入として、賛助会員という形をとっていくことができないか、その方法についても模索しています。

Social Kitchen
http://hanareproject.net

hanautaマルシェ
https://www.facebook.com/hanautamarche

hyslom
http://hyslom.com

食堂haco
http://shokudohaco.hatenablog.com

喫茶文九
http://bunkyu17.seesaa.net

文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館
の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に
『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』
(平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・ス
タジオ)など。限定本http://book-ladder.tumblr.com/

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表
も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見
つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’sKEI
KO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。