アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#11
2013.11

しょうぶ学園 ― ものづくり、アート、創造性 ―

後編 真にクリエイティブな環境の実現
1)「細胞の記憶 表現のかたち」展

MG_04

MG_09

(3点ともに)「細胞の記憶 表現のかたち」展(2013年9月26日〜10月12日)。しょうぶ学園の布、紙、土の作品が一堂に会した

(3点ともに)「細胞の記憶 表現のかたち」展(2013年9月26日〜10月12日)。しょうぶ学園の布、紙、土の作品が一堂に会した

福森伸さんのオープニング・トーク。老若男女、福祉関係者から学生まで、多くの方々が詰めかけた(撮影:しょうぶ学園)

福森伸さんのオープニング・トーク。老若男女、福祉関係者から学生まで、多くの方々が詰めかけた(撮影:しょうぶ学園)

しょうぶ学園が京都にやってきた。
京都造形芸術大学ギャルリ・オーブでしょうぶ学園の展覧会「細胞の記憶 —表現のかたち」が2013年9月26日〜10月12日に開催された。同大学のこども芸術学科が主催し、教員と学生有志が主体となって企画、展示構成、運営にまでかかわり実現させたものだ。展覧会タイトルも学生たちが議論を重ねて決めたという。
会場の大きな面積を占めているのは、ヌイ・プロジェクトの布の造形で、やはり圧倒的な存在感を放っている。大島智美さんのビーズ作品、野間口桂介さんの刺繍で覆われて縮んだシャツ、吉本篤史さんのジョーゼットに玉留めしている作品をはじめ、学園を代表する力作が並ぶ。それに彫刻や絵画が数点。記富久さんのユーモラスな自画像的な彫刻が和んだ雰囲気を醸し出す。わたしもこれまで写真集でしか見ていなかった作品の数々に接して、手のしごとの凋密さ、構図の大胆さ、絶妙な色彩感覚に、改めて驚かされた。
大きくて白いギャラリースペースに置かれているので、いかにも美術や工芸の作品という見え方がしてしまう。当然のことながら、しょうぶ学園に置かれているときの親密さはあまり感じられない。入口のモニターには工房での制作風景がそれぞれ作者の名前入りで上映されており、来場者が熱心に見入っている。
オープニングに合わせて福森伸さんが京都に来られて、100名を超える聴衆がギャラリートークに熱心に聞き入った。福森順子さんほか学園スタッフも数名同行されていて、個人的にも皆さんに再会する嬉しい機会となったのである。
福森伸さんは「工房しょうぶの美意識エンパワメント」というタイトルで、しょうぶ学園の活動を振り返りつつ、人間が持っている潜在能力について講演された。社会生活を送るなかで忘れている本来の直観や欲求をもう一度見つめ、創造へと転換しようと提案している。ものづくりをする学生たちに向けたメッセージだ。
この展覧会は会期中の2週間で約1,900人以上もの来場者を数え、動員のうえでも成功裡に幕を閉じた。しょうぶ学園への関心の高さがうかがわれる。
この展覧会の企画は、2012年、京都造形大教員数名がしょうぶ学園を見学して感銘を受け、ぜひ学生たちに見せようと決意したことが出発点となっている。しょうぶ学園には訪れたひとをファンにしてしまう不思議な力があるようだ。
かくいうわたしも学園の開放的な空気、ものづくりに真剣に取り組む人々、そこから生み出されるユニークな作品に魅せられた一人である。しょうぶ学園が自由な創造性を生みだしているのはどうしてなのか、学園でつくられる作品が人々を引きつけるのはなぜなのか、学園とかかわりのあるひとたちから話を聞きながら、その魅力に迫ってみたい。

(展示光景撮影:河田憲政)

(展示光景撮影:河田憲政)