アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#65
2018.10

生活と表現が育まれる土壌

後編 NPOアートフル・アクションの日常 東京・小金井
1)「市民」が運営する場

東京都小金井市には大きな公園がいくつもあり、桜の名所や自然林も広がっている緑豊かな地域だ。昔から湧き水が豊かで「黄金に価する豊富な水が出る」ことから、小金(黄金)井という地名が付いたほど。市内のほとんどは住宅地で、つまり、郊外にあるベッドタウンである。
オレンジ色の中央線に乗って、新宿から約20分。市のほぼ真ん中にある武蔵小金井駅で降りて5分ほど歩くと『小金井アートスポット シャトー2F(ニーエフ)』の扉が現れる。
このシャトー小金井は、約100世帯が暮らす10F建てマンションである。1974年に建てられた当初は階下にレストランが入っていた。廃墟のようになっていた時期もあるそうだが、2009年からその一部をアートフル・アクションが借り受けたというわけだ。もともと何でも揃うショッピングモールのような場所で、居酒屋や学習塾があり、地下にはなんとスポーツジムが入っていて、スイミングプールやバスケットボールコートなどもある。しかも「入っちゃいけないことになっている窓のない部屋には、ソファやテレビ、洗濯機もあって、ついさっきまでひとが住んでいたような気配がある」というから、わけがわからない。近隣では再開発が進むなか対象エリアからは外れ、ひっそりと生き延びている不思議な建物だ。

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アートフル・アクションは、市内を中心に、市民や自治体、学校、企業などと連携しながら、地域でさまざまなアート活動を行っているNPO法人である。アートと出会ったひとが自分自身の新しい可能性を発見し、豊かな生き方を目指すきっかけづくりを行っている。
はじまりは、2007年に市が「小金井市芸術文化振興条例」を制定したことから。誰もが芸術文化を楽しめるまちになるために、2008年に「小金井市芸術文化振興計画」を立て、翌年それを具体化する事業としてスタートした。これまでさまざまな活動を行ってきたが、この計画は「市民とアーティストが協働した作品の制作」「芸術文化と市民をつなぐ機会の整備」「市民参加のきっかけとなる講座の運営」という3つの軸で展開している。
大きな特徴は、「市民スタッフ」が運営主体であるということだ。市民とは、そのまちに暮らすふつうの人々である。つまり、アートやまちづくりの専門家であるというわけではない。一体、どのように活動が行われているのだろうか?