アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#62
2018.07

音楽とアートが取り持つ、まちの多層性

2 広島・尾道
3)ベルリンに似た空気を感じて
——長江青さんに聞く(1)

武蔵野美術大学在学中にファッションデザイナーの皆川明氏と出会い、ファッションブランド「ミナ ペルホネン」の設立時からデザイナーとして関わってきた長江青さんは、アーティストである小金沢健人さんとの結婚を機にドイツのベルリンに移住。約10年にわたる滞在中に一男一女の母となり、2017年1月、子どもの就学を見据えて尾道に生活の場を移した。ひさびさの日本での再出発。かつて暮らしていた東京ではなく、尾道を選んだのはなぜだったのだろうか。

———以前、夫が尾道を旅した時、「自分が住み始めたころのベルリンみたいな自由さを感じた」と言っていたんです。空き家が多くて、広いスタジオが安く借りられそうなところも含めて。夫がベルリンで出会ったDJ仲間が尾道にいたこともあり、とりあえず最初に見つけた物件に引っ越して、落ち着けるところをじっくり探そうという気持ちで住み始めました。私自身も日本での子育てが初めてでしたし、リアルな日本をどうにかキャッチアップしたという1年でしたね。

いざ引っ越してみると、夫のDJ仲間の友人家族が手厚く世話をしてくれたり、大学時代の友人が偶然にも向島でテキスタイルの研究所を立ち上げていたりと、嬉しい縁に恵まれた。特に意外だったのは、大好きな音楽のイベントが充実していたことだ。

———自転車で行ける距離の音楽ライブの量の豊富さと質の高さは、このまちの規模を考えればびっくりするほどだと思います。去年だと中村佳穂さんのピアノの弾き語りライブが「ハライソ珈琲」という小さいカフェであったり、最近ではタブラ奏者のU-zhaan(ユザーン)さんのライブが浄泉寺であったり。ベルリンは音楽シーンが熱くて、インプロビゼーション系やクラシック系も強かったので、そこから遠くなるとちょっと寂しいなと思っていたんですけど、尾道は思った以上に音楽シーンで楽しいことが起こるまちでしたね。あと、子連れで行ける音楽イベントが多いのがありがたくて。子どもが一緒に聴いていられない時に逃げ場がある会場が多いんですよね。浄泉寺なら大人は本堂の中で聴いていて、子どもは外を走り回ってるとか。尾道に住んでいる方たちは外から新しく来たひとでも、入れてあげるよ、教えてあげるよ、おいでおいで、というムードがあって、おおらかさがあるな、と思います。

「日本の夏ってこんなに暑かったっけ、とか、そういえばみなさん、夏でもコットンだったりリネンだったり、日よけや冷房対策でいろいろな羽織りものを持ってらっしゃるな、といったことまで、とにかく今の日本に早く追いつかなくちゃと感じた1年でした」とデザイナーらしい目線で尾道での暮らしを語る長江青さん。海運倉庫をリノベーションした商業施設「ONOMICHI U2」前のテラスにて、長女の夕夏ちゃんと