アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#4
2013.04

新潟 「エフスタイル」がつむぐ、あたたかな「循環」

前編 エフスタイルのものづくり

6.「作り手が作りたいもの」をつくる

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亀田縞の白縞の割烹着

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シナ縄のキッチンマットとシナの外皮を剥がした後の木材で作った漆塗りのコップ

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大切に保管している、シナ縄の巾着バッグ(手前)とマルシェバッグのサンプル

作り手自身が作りたいと思えるものをサポートしていく。それは具体的にどんな作業なのだろう。

「話し合いの中で、作り手さんが大プッシュしてくることは基本的に削ぎません。例えばここに金属があって、私たちがツヤ消しの方が好きでも、『うちは“磨き”が得意なんだよ』と作り手さんが言えば、『ツヤもいいね』と思わせる何かを考えます」(星野)

新潟市江南区の織物メーカー・立川織物(詳細は次号)と一緒につくった最近の新作、亀田縞の布を使ったシックな割烹着も、決してエプロンにはしなかった。

「亀田縞は野良着として始まっていますからね。やっぱり、エプロンじゃなくて割烹着でしょう」(星野)

ものにはなりたちがあり、すべては理にかなって出来ている。食の道具のために発達してきた技術をペンケースに転用する、といったデザインには強い違和感を抱く。

「私たちは、今までにないものを作ってやろう、と思ってものづくりをしているわけではないので。飛び道具的なものをつくっても仕方がない」(星野)

そのやり方は、作り手の人生にもおのずと触れることになり、一度取引を始めた作り手とは、人同士としての付き合いが長く続く。

そんな2人が今、案じているのが、新潟と山形の山間にある4集落だけで織り継がれる古代織物「シナ布」の行く末だ。現在は、集落のひとつ、雷(いかづち)で暮らす4人の女性が営む「雷しなばた保存会」との付き合いを通して、シナ縄を使ったあんぎん編みのバッグや小物などの製作をお願いしている。中でも、シナ縄のあんぎん編みトートバッグは、数あるエフスタイルの商品の中でも惹き付けられる人が多い品だ。しかしながら、村で急速に進む高齢化と人手不足のため、現在予約受注している分だけで手一杯となっている。
現地を訪れるたび、刻一刻と変わっていくのを肌で感じる、織り手さんたちの暮らし。その状況をただ黙って見ていられなかった2人は、昨年から、梅雨の時期に行われるシナの木の「皮剥ぎ」(※)の作業を手伝うようになった。最近では、皮を剥いだ後の中身の木材を使った、漆塗りの食器も展開している。

「すぐに対策を出すことはできないけれど、現地へ行き、会って話す中でヒントが見えてくることもあるかもしれない。だから関わることをやめない。変化を体感することをやめたくないんです」(五十嵐)

大ヒットの予感や潤沢な予算が、ものづくりの原動力になるという人もいるだろう。しかしエフスタイルの場合、ものづくりの原動力は、伝えるべき技術やそれを生み出す人々の暮らしに触れた瞬間に起こる、きわめて私的な感動や畏敬の気持ちから生まれる。その2人の感情の揺れは、そのまま作り手の心に伝わり、共鳴するように揺れるのだ。
保存会の代表である大滝洋子さんが、シナ布の歴史や製法をまとめた資料書に、こんな一文を寄せている。

「平成17年に、東北芸術工科大学(山形)を出られた新潟在住の若い二人の女性が訪ねてこられ、しなについて勉強をしたいとのことでした。その人達は[エフスタイル]と云う地場産業の商品企画をする人達でした。一筋の光を見たようで、希望が湧いてきました。現在もいろいろと研究をして下さっていますし、私達もそれに答えられるようにと努力を続けています」

※シナの木の外皮を剥がし、やわらかい中皮を取り出すこと。