アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#4
2013.04

新潟 「エフスタイル」がつむぐ、あたたかな「循環」

前編 エフスタイルのものづくり
1)エフスタイルというスタイル
佐藤ニット(東京)と開発した無縫製ウールニット

佐藤ニット(東京)と開発した無縫製ウールニット

定番商品、くつ下工房(新潟)のゴムなし靴下

定番商品、くつ下工房(新潟)のゴムなし靴下

ポリエステル100%の布「ステインプルーフ」の祝儀袋

ポリエステル100%の布「ステインプルーフ」の祝儀袋

ふるいや馬毛の裏ごし器、持ち手を伐採木材で仕上げた銅の行平鍋、シナ縄の鍋敷など台所用品も多い

ふるいや馬毛の裏ごし器、持ち手を伐採木材で仕上げた銅の行平鍋、シナ縄の鍋敷など台所用品も多い

シナ縄の花かご

シナ縄の花かご

穂積繊維工業製の「Rondo cat mat」

穂積繊維工業製の「Rondo cat mat」

中2階から見たショールーム

中2階から見たショールーム

———今日の空は、新潟らしい空ですね。このグレー色、嫌いと言うひとも多いんですけど、わたしたちは大好きなんです。そのせいか、うちの商品にもグレーカラーが多いんですよ。

JR新潟駅から車で約20分。真っ白な新雪がふりつもる女池愛宕の一角にたたずむショールームで、エフスタイルの五十嵐恵美さんと星野若菜さんが出迎えてくれた。
元は自動販売機の設置業者の倉庫だったというこの白いL字形のショールーム兼仕事場は、2012年12月下旬に新しく移転オープンしたものだ。
心地よい音楽が流れる1階のメインスペースには、新潟・山形などの製造工場、地域に伝わる手工芸の職人たちと共に開発したエフスタイルの全商品が、古材を使ったベンチや棚などに美しく展示されている。障子張りの大きな引き戸で仕切られた奥のスペースは、2人の仕事場だ。桐材の香りに包まれたこの空間で、日々の打ち合わせや、出来上がってきた商品の検品・出荷作業を行っている。

———これまでは同じ新潟市内にある長屋を仕事場にしていたんですが、商品が増えてきて手狭になってしまって。できることが増えたのに、減らすことを考えなくちゃいけなくなった。わたしたち、空間に合わせたものしかつくれないんです。だから、新しい空間に自分たちを置いてみることにしたんです。(星野)

その“新しい空間”に並ぶエフスタイルの商品は、衣類や台所道具などの生活用品が中心だ。自然を思わせるやわらかな色合い。長く使えそうな丈夫な質感。そのどれもが、日々の暮らしにそっと寄り添うような機能美をたたえている。
例えば、エフスタイルの代表作であり、その活動が始まるきっかけともなった「HOUSE doggy mat」。山形の緞通製造工場と開発したこのルームマットは、麻糸のループで織り上げた平たい下地に、毛足の長いウールの糸で立体的な犬のモチーフが織り加えてある。今にも歩き出しそうなとぼけた犬の表情に思わず笑みがこぼれてしまうが、丈夫で通気性のよい麻部分、もこもことしたウール部分の質感の差が足裏に気持ちよく、機能的にもすぐれたデザインとなっている。
ほかにも、一日はいても疲れないゴムなしの靴下、肩の凝らない薄手のフード付きセーター、新潟の亀田地域に伝わる織物「亀田縞」のパンツ、蒸し器にも使える深底の両手銅鍋、新潟・山形の山間地域に伝わる「シナ織」の鍋敷やキッチンマット、帆布のような質感を持ちながら撥水性にすぐれるポリエステル100%の布「ステインプルーフ」でつくったパソコンケースなど、一度使うと手放せなくなるものばかりだ。

五十嵐さんと星野さんは、エフスタイルの商品を共につくる企業や職人たちを、親愛を込めて“つくり手さん”と呼ぶ。現在、一緒に商品づくりを行うのは、約18のつくり手だ。
2人はつくり手と相談しながら商品の“デザイン”を請け負うが、エフスタイルの活動において、この“デザイン”ということばがとらえるものは、わたしたちがイメージする内容とは少し異なる。彼女たちは、単なるプロダクトデザイナーではない。つくり手と何度も会って話を聞き、その技術や製法を頭と心で理解し、その上でつくり手に無理のない商品開発を進め、受注・検品・出荷作業を自ら担い、商品を卸す小売店を自分たちの目と足で探す。また、日本各地にある小売店で積極的に展示会を行い、現地に出かけていってはお客さん一人一人に商品の生産背景を伝えながら、自分たちで接客・販売を行う。

よい製品を消費者の手にきちんと届けるために必要な、こまごまとしたこと。これまで誰も手をつけなかった「製造側が手に負えないことで、デザイナーがやらないような仕事」。それらをすべて引き受け、流通のループ全体を「デザイン」しているのだ。
今でこそ、雑誌や雑貨店などで、日本の知られざる地場産業やローカルな工芸品にスポットがあたる機会も増えてきたが、驚くのは、2人が12年も前から、このスタイルをとってきたということである。この「エフスタイルというスタイル」ともいうべき彼女たち固有のものづくりの方法は、一体どのような経緯で生まれたのだろう。