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アネモメトリ -風の手帖-

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#60
2018.05

場をつくる × クラウドファンディング

京都・出町座 後編
4)消費行動を変える新たな関係性をつくる手立て

この出町座のクラウドファンディングを担当して、梅本さん自身の変化はあったのだろうか。

———まちの映画館に行くようにしています。出町座のプロジェクトに関わって、ちょっと大げさかもしれませんが自分の消費活動が社会を変えるかもしれないと思うようになりました。映画をみるにしても、テレビ放映か、ネット配信か、DVDレンタルか、映画館に出かけていってみるのか……そうしたひとつひとつの行動の選択が、社会に影響しているのかもしれない、と。

消費活動を変える? 社会を変えるとは?

——— 今仕事で毎月、全国のまちを訪問しているんです。その行く先々で地域の古い映画館に足を運んで、そこでたまたま上映されている映画をみてくることを続けています。昔ながらの映画館やミニシアターが減っていく状況は、自分ひとりで変えられるものではないかもしれないけれど、存在し続けてほしい場所やものにお金を使うことって大事だな、と。それに、たまたま出かけた先で映画館に入ると、自分が狙っていなかった映画や、みたことがなかった古い名作などに偶然出会えるんですね。

現在のわたしたちにとって「映画をみる」とは、事前にいろいろなメディアを通して入ってきた情報から自分好みの作品を選び、時間を合わせて映画館に行くという行為だ。それが、一番にハズレのない、損をしない選択だからだ。だが、たまたま映画館でやっていた「映画をみる」という行動は、大ハズレする可能性もある。

———でも、作品としては好きになれなくても、その経験そのものが忘れられないものになる。新しい映画体験となっていくんです。

ある種のクラウドファンディングのプロジェクトに関わったひとたちは、それをきっかけに自身と社会の関係を見直し始めているのかもしれない。

———クラウドファンディングは、資金調達だけに目を向けるとさほど効率のよい手法ではないと思います。広報や顧客の獲得まで視野にいれれば、経済的なメリットはたくさんありますが、リターンの作業量も多いですし。わたしは、クラウドファンディングはそれを「やる意味をみんなで共有できる」という、ひととひととの関係性づくりに利点があると思いますし、そういう風に使っているひとが好きなんです。今は、地方でまちづくりや新しい活動を起こそうとしているひとたちをサポートしていく活動をしているのですが、クラウドファンディングという手法で新しい出会いや関係性をつくっていけると面白いですよね。

「何のためのクラウドファンディング?」という問いの、ひとつの答えが見えてきた。クラウドファンディングは、お金の流れだけを追っていくとプロジェクトを成立させるための一時的な“お祭り騒ぎ”と捉えられるかもしれない。だが、「ひと」に注目するとまた違う風景が見えてくる。クラウドファンディングを介して、出会うはずのなかった「ひと」と「ひと」がつながる。「ひと」と場所がつながる。そして人びとの日々の選択と行動が変化し続けるとしたら……。わたしたちは、これまでとは違う「価値」のなかで、暮らし始めているのかもしない。

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気さくな商店街にすでに溶け込んでいる / 立誠シネマ時代からのつながりは大切なもの

気さくな商店街にすでに溶け込んでいる / 立誠シネマ時代からのつながりは大切なもの

桝形商店街に出町座がオープンして4ヵ月が過ぎた。わたしたちは、「今日も元気だ!」と大きな垂れ幕がかかったアーケードを通り、映画をみに行くこと、本を探しに行くことが当たり前の日々を過ごしている。カフェでお茶をしながら今みてきたばかりの映画の余韻を味わうひともいれば、帰りに夕飯の買い物をしたり、居酒屋でちょっと一杯というひともいるだろう。

「出町座で映画をみた」という記憶には、いくつものシーンが重なっている。それは、人生を豊かにしてくれる記憶だ。クラウドファンディングは、その豊かさをごくふつうの人びとが自ら創り出すきっかけになった。直接の資金提供だけではない。開業後の、あの場所に映画をみにいくという行為が自身の人生を豊かにしていくのだと気づいたのだ。逆に考えれば、出町座におけるクラウドファンディングの成功は、そうしたお金や便利さでは測りきれない豊さの「価値」を多くの人びとが理解し、求めていたからだと言えるだろう。

来年の2月号、3月号では特集「クラウドファンディング × 場づくり」の第2弾として、Theatre E9 Kyotoを取り上げる。Theatre E9 Kyotoは、京都の東九条で2019年春に開業する予定の客席数100席の小劇場で、現地点でクラウドファンディングによって616人から1,900万円以上の資金を集めている。そこではどんな「価値の提示」があり、人びとは何を求めて支援をしたのか。発起人の方々にお話をうかがっていく。

出町座
https://demachiza.com

取材・文:山下里加(やました・りか)
京都造形芸術大学アートプロデュース学科教授。アートジャーナリスト。大阪アーツカウンシル専門委員(2013年6月〜2018年3月)、高槻市・豊中市・奈良市などの文化振興会議委員など地方自治体における文化政策に関わる。『地域創造』(一般財団法人地域創造)にてアートとまちづくりの関係を取材・執筆。『ブリコラージュ・アート・ナウ 日常の冒険者たち』(国立民族学博物館、2005年)、『山下さんちのアーカイブを持って帰る』展(ARTZONE、2014年)などの展覧会企画に参加。

写真(表紙、扉、1、4章):成田 舞(なりた・まい)
1984年生まれ、京都市在住。写真家、1児の母。暮らしの中で起こるできごとをもとに、現代の民話が編まれたらどうなるのかをテーマに写真と文章を組み合わせた展示や朗読、スライドショーなどを発表。2009年 littlemoreBCCKS写真集公募展にて大賞・審査員賞受賞(川内倫子氏選)2011年写真集「ヨウルのラップ」(リトルモア)を出版。

写真(2、3章):鍵岡龍門(かぎおか ・りゅうもん)
写真家。Chelsea College of Art, BA Sculpture, UK 卒業。2006年、活動開始。書籍や雑誌を中心に活動を続ける。2007年、『春風接人』でCanon写真新世紀の佳作受賞。主な個展に『本の窠』(書肆サイコロ 、2012)、企画展に『日本のデザイン2011』鹿児島編(東京Midtown DesignHub 、2011)、グループ展に『しゃしんわ』(りす写友会・島根県立美術館、2010)など。

編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。