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アネモメトリ -風の手帖-

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#59
2018.04

場をつくる × クラウドファンディング

前編 京都・出町座
はじめに 何のためのクラウドファンディング?

京都で2つの文化施設がクラウドファンディングで資金を集め、開業への道筋をつくった、と話題になっている。2017年12月18日に開館した映画×本×カフェが複合した出町座と、2019年春に開館予定の劇場、Theare E9 Kyotoだ。
クラウドファンディングとは、プロジェクトや事業実施のための資金を、インターネットを通じて多数の人々から少しずつ集めていく資金調達の仕掛けである。日本では、2010年代からCAMPFIRE(キャンプファイアー)、Readyfor(レディフォー)、MotionGallery(モーションギャラリー)などの数多くのサイト(プラットフォーム)が開設され、いくつものプロジェクトを扱っている。出資側は、サイト上で自身が出資したい相手先を見つけ、クレジットカード支払いなどで資金を出す。出資者のほとんどは個人であり、数千円から数十万円の比較的小さな金額を数多く集められることが特徴だ。
クラウドファンディングが登場する以前、事業やプロジェクトの資金調達は、銀行から融資を受けるか、企業や個人投資家からの出資を受けるのが当たり前だった。芸術文化の領域では、助成団体による「助成金」を獲得するのが一般的な手段であった。これらの場合には、大きな資金を持つ団体・個人が投資や助成に値する事業内容なのかを企画書や応募書類で審査し、採択を決定し、事業終了後は利益の徴収や報告書の提出を求める。出資者は、経営や業界の専門性を備えており、出資の対価は経済的な利益やその業界での成果であった。特に商業ベースにのらないタイプの芸術文化は、これまで多くの人々と共有できる価値を提示することが難しく、だからこそ専門性を備えた団体・個人が支援する必要があるとされてきた。
クラウドファンディングの登場は、こうした関係を変えようとしている。出資者は一般市民がほとんどで、見返りに経済的な利益を求めているわけではない。ということは、出資を受ける側が、「(金銭以外に)何を価値とするのか」を自ら見出し、専門家ではない多くの人々に伝わるかたちで提示する必要がある。では、芸術文化でコトを起こそうするひとは何を「価値」として提示し、多くの人々の共感を呼び込んでいるのだろうか。
出町座とTheare E9 Kyotoは、一時的なイベントではなく、常設の文化施設の開業にクラウドファンディングを活用し、目標資金より大きな金額と多くの出資者を集めた。そこでは、いったいどのような「価値の提示」があり、出資者たちにどのように伝わったのか。出資を決めた数百人規模の共感は何を生み出していくのか。4月号と5月号で出町座、2019年2月号3月号でTheare E9 Kyotoが行ったクラウドファンディングを取り上げ、コトを起こすひとと支援するひととの関係、共感をベースにした価値の創出について考察してみたい。