アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#1
2013.01

「本」でつながる、広がる ひととまち

後編 東北の場合、盛岡

3)そのまちに合わせて  仙台と盛岡

木村さんたちの活動は、『てくり』編集だけではない。「自分たちのやれる範囲のことをやる」と決め、『てくり』を軸に、出版にとどまらない活動を続け、広げている。雑誌や別冊のテーマに沿ったトークショーや食事会、展覧会などを企画したり、オリジナルの器を限定販売したり‥‥‥。また、2011年からは盛岡のまちを舞台にしたブックイベント「モリブロ」も始めた。2012年は「本と写真」というテーマを設定。トークやワークショップの他、写真集の展示やコンサート、また雑貨や家具、飲食などのマルシェも同時開催するなど、ラインナップを見るだけでもイベントとしてのふくらみと厚みが伝わってくる。

盛岡と仙台で、同じように本から始まる動きが広がっているわけだけれど、盛岡『てくり』のつながりかたは、どちらかというとクールな印象である。仙台の場合はゆるやかに自由であっても、本に関わるひとたちが集まって「みんな」で何かする、という意識を高めていったように感じた(0号参照)。それに対して、盛岡はもう少し個と個としての要素が強いように思う。また、いっしょに何かをするメンバーも『てくり』が取材を通じて知り合った喫茶店や雑貨店、ギャラリーなど、出版にたずさわる以外の方たちや、また外からやってきた方たちも多い。その違いは、ひとの個性によるのはもちろん、まちの成り立ちとも大いに関係しているかもしれない。

仙台と盛岡1

素敵なカフェ「carta」のオーナー加賀谷さん夫妻はモリブロでライブイベントを担当

モリブロ

仙台と盛岡3

「モリブロ」のメイン会場、岩手県公会堂

zinestop

東北の作家をフィーチャーするギャラリー「cyg」。東北のzineを広く集めた展示を行ったことも

0号で取りあげた仙台のブックカフェ「火星の庭」店主の前野久美子さんは、盛岡が大好きでしばしば訪ねるという。『てくり』編集部の木村さんとは、お互いの主催するワークショップやトークイベントにゲストとして招いたり招かれたり、という間柄でもある。

前野さんによると、仙台が第二次大戦で町並みが壊滅したのに対し、盛岡は古い建物が壊されずに残った。その違いは大きいという。

第二次世界大戦で、仙台は集中して空襲を受け、市街地が壊滅した。第二師団という大きな陸軍の基地があったため攻撃を受け、古い建物はかなり壊され、1,500人もの死者が出た。その後、米軍の占領が何年間か続き、市街地の通りの名前も英語になって、米兵が闊歩するまちとなってしまった。いっぽう盛岡は爆撃がひどかったり、占領されたりということはなかったから、戦前の古い建物などがそのまま残されているのだ。

「盛岡は盛岡にしかない良さがあります。喫茶店文化も残っていますし。すごくいいですよ、盛岡喫茶店! スターバックスが盛岡に5軒進出したけど、2軒撤退と聞いています。大手資本の手は盛岡にも伸びていると思うけれど、仙台ほどではない。昔ながらのものが強いですよね。老舗の喫茶店に行ったりすると、おじいちゃんやおばあちゃんが新聞読んでて、隣で若い子がおしゃべりしていて、というのが普通の風景ですから」。

木村さんたちが話してくれたように、盛岡には大事な伝統や文化が今も息づいている。守るものがある。もちろん、仙台にも残すべき伝統や文化はあるわけだけれど、こと建物や風景に関しては、一夜で破壊されてしまったところから、自分たちで作っていくしかなかった。

「まちにはいろんな条件がありますよね。仙台は一度ハード面や風景で壊れてしまったので、ただその辺を歩いているだけでは特徴のないまちに見えると思うんです。アーケ—ドなどはチェーン店ばかりですし。でも、建物とか歴史的なものが見えにくいぶん、居る人たちが面白くしようと、イベントやお祭りをたくさんやっている。マンパワーで種を蒔き、新しく始めていく。そこが良いのかな、とも思います」。

守るべきものがあるまちと、新たに作るしかないまちと。どちらがいいとか悪いではない。その歴史と現実に見合ったひとのつながりや姿勢が生まれるのだと思う。

仙台と盛岡

左)戦後まもなく植樹された仙台・定禅寺通りのケヤキ並木 右)盛岡のランドマーク的存在、旧盛岡銀行本店は明治の名建築