アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#1
2013.01

「本」でつながる、広がる ひととまち

後編 東北の場合、盛岡

2)盛岡発『てくり』 全国に届くリトルプレス(2)

今いる場所に ぎゅっと寄る、そして俯瞰する

何本かある連載のうち、創刊当初からのインタビュー企画はとりわけ興味深い。『東京でもない、富良野でもない、あなたが盛岡で働き、暮らす理由。あなたはなぜここにいるのですか?』と題し、毎回3名、老若男女、さまざまな職業のひとにインタビューするものだ。盛岡との関わりも、生まれ育った方もいれば、大人になって移り住んだ方も、よそのまちに出てUターンして来た方もとケース・バイ・ケース。ところで、東京はわかるけれど、なぜ富良野なのだろうか。

「それ、他の方にも言われました(笑)。テレビ番組『北の国から』のイメージなんですが、憧れの田舎といえば富良野かな、と(笑)。つまり、ロマンのある田舎でもない、大都会でもない盛岡になぜいるのか、と。私たち自身がいちばん聞きたいことなんですよね」。

木村さんと赤坂さんは盛岡出身だが、ともに県外に住んでいた時期もある。水野さんは遠野出身だが盛岡に長い。外からの目線を持っているからか、3人ともに、盛岡に対してはかなり冷静である。

「戻ってきたのもなんとなく、ですし、今もなんとなくいる。盛岡好きなんでしょ、と言われると困るんですよ。だから、どうしてみんな好きというのかな、と不思議に思って、逆にそれを聞きたかった。どうしてと問いかけ、答えが返って来たらなるほど、なるほど、と。じゃあ私たちはどうなのかな、と考え続けていて。インタビューしたみなさんも、「なぜ?」と問いかけられることで、なぜここにいるのか、ゆっくり考えることができました、と言ってくれますね」。

これは、盛岡に限った話ではないだろう。たとえイメージのいいまちであったとしても、日常生活を送っていれば、無邪気に「好き」とばかり言ってもいられない。でも、そこに居る以上、いいところを見つけたい、その土地を楽しみたい、というのはごく自然な感情と思う。『てくり』では、読者ともどもそのことを探り続けている。そしてそのやりかたとしては、取材するひとに添いながらも、それだけにとどまらない。

「私たちはぎゅっと絞って見ていく一方で、どこか俯瞰しているところがあるのかな、と思います。カメラのレンズがふたつある、そんなイメージ。ひとりのひとをフォーカスして取材するのですが、一歩引いて眺めるとそれはどこでも起こりうることだったりする。そんな作り方をしているんじゃないでしょうか。だから全国の方々が読んでも、「盛岡いいな」だけでなく、「こういうひとなら、うちにもいるよ」という親近感を持っていただけるのかと。自分のまちでも『てくり』みたいな雑誌を作りたい、と言ってもらえるのは、たぶんそういうところだと思うんですね」。

誌面でで取りあげられたひとやモノやできごとを受け取りながら、読者は自分の住むまちや自分にもあてはめ、身の回りに目を向けたくなる。『てくり』は盛岡のことを取りあげながら、もっと広いところに向かってひらいている。

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まちの記憶を残し、伝える

富良野のようにロマンのある田舎ではない、というけれど、一介の旅行者にとって盛岡はとりどりの魅力にあふれている。 中津川がゆったり流れる、穏やかな景色。

ノスタルジックな明治の建築物に、江戸時代からの趣ある商家の格子。時代や雰囲気もさまざまな、層の厚い喫茶店。シンプルなセンスのよい生活道具も揃っている。まちの空気も、ものの佇まいも澄んでいて、どこか北欧を思わせる。「みちのくの小京都」と呼ばれるようだが、京都に住む身としては、良い意味で京都とはまったく違うセンスのよさを感じる。

「いいところはもちろんありますけれど、それがすべてではない。ここ最近は古い建物がどんどん壊されていて、高い建物も増えました」。これもまた、ある程度の歴史や伝統のあるまちに共通していることだろう。グローバル化の波は地方都市にも及んでいる。郊外にショッピングセンターができ、まちなかに大手チェーン店や駐車場が増え、どこのまちにも同じような光景が広がりつつある。なかでも盛岡は行政が町並みの保存にさほど積極的でなく、歯抜け状態になっていき、趣のある建造物や町並みがずいぶん失われてしまったのだという。 「古いものがすべて良いわけではありませんが、このまちの伝統や文化が失われていくのを見るのはつらいです。私たちは少部数のマイナーな雑誌ですから、まちに対する影響力は何もない。けれど「ふだん」という切り口でそれを誌面に載せて、記録していくことならできる。そう思って作っています」。

大切な、なくなりそうなものを追いかけて、伝えたい、残したい。 といっても、3人のお人柄もあって、悲壮感はまったくない。誌面は明るく温かで、眺めるだけで楽しくなる。さらに1冊、1冊読みつないでいくと、15号のゆるやかな積み重ねから、盛岡というまちの息づかいが感じられてくるようだ。
盛岡は独特のセンスのよさを感じるまち。

まちのランドマーク的存在、旧盛岡銀行本店-thumb大正モダンな火の見櫓南部紫根染「草紫堂」のファサードも印象的南部鉄器と鉄鍋鋳造「及源」のシンプルで美しいのれんDSC_0177毎朝規則正しくほうきなどを並べる「ござ九」は盛岡の良心