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アネモメトリ -風の手帖-

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2012.12

「本」でつながる、広がる ひととまち

前編 東北の場合、仙台
7)仙台に根ざした本を、自分たちで「仙台文庫」

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そもそも、大泉浩一さんの「仙台文庫」はB!B!Sから生まれたようなところもある。大泉さんは50代、実行委員会のなかで一番年長だが、佐藤純子さんをはじめ年下の個性的なメンバーと知り合えて、多いに刺激を受けたという。「みんな面白いひとばかりだから、このグループで本作るのどう? みんな一冊ずつ本書いてよ、と冗談半分で言っていて。そのうち、本当にやることにしてしまったんですね」。キャッチフレーズは「本で街と人をつなぐ・仙台文庫」。商業出版でもなく、自費出版でもない「市民出版」を目指している。自分たちが読みたい本を企画・編集し、経費も一般から募ってまかなう、というやりかただ。

大泉さんは長くライターを続けるうちに仙台における出版のありかたに問題意識を持つようになっていた。仙台にもいい出版社はあるけれど、文化的な蓄積を伝える仕組みがない、足りない、と。危機感にも近い気持ちだった。「例えば東京にいたら絶対に本が出ている、著者になっているような方々が、仙台にいるから本にならない。それなら自分が個人的にまわせる範囲でやってみようと思ったんです」。大泉さんはもちろん、誰ももうからないけれど、一般市民や若い世代を中心に仙台のひとが読みたい、仙台のひとに向けての本を出したい。大泉さんの熱意に応えて、「じゃあやるか」と最初に言ってくれたのが前野さんだった。

前野さん初の著書『ブックカフェのある街』は、前野さんの嵐のような半生記とともに、「火星の庭」のこれまでと現在、さらに仙台の本文化を担う方たちのインタビューやレポートと盛りだくさんな内容となっている。

「仙台文庫」では前野さんを皮切りに、さまざまなジャンルで活躍する仙台の方々の本を立て続けに出版している。2011年1月に前野さんの本を刊行以来、2012年12月現在、新書サイズの「仙台文庫」を7冊、別冊として『月刊佐藤純子』とハイペース。企画から送付まで、大泉さんひとりでやっているのだから大奮闘だ。「本でまちとひとをつなぐ、というのをいいかたちでやっていきたい。今のところ、僕が企画したものがほとんどですが、これからはいろんな方に、いろんなかたちで関わってもらいたいですね」。