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アネモメトリ -風の手帖-

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#55
2017.12

まちと芸術祭

3 札幌国際芸術祭2017の公式ガイドブックを片手に(第3日目)

「石狩シーツ」の自作朗読は、数人のメンバーによって、撮影、録音、音響設計されており、巧みに編集され、きめ細かな音となってスピーカーから流れ、聴き入り、見入ってしまうが、それとは別にやや小さめにプロジェクションされている映像は、作者の自撮りであり、ヘッドホンによって聞くようになっている。明らかにメイン映像ではないわけだが、この声がまたいいのだ。
地球相手の朗読の声とは全く別人のような、普通のおじいさんのような詩人の地声が、「宇宙っていうのは、あまりにしずかできっとさみしいだろうなあ。さっき水鳥っていうの、カモメっていうの、オレによびかけてたもんなあ」などと聞こえてくる。映像は、港であり、海が見え、積荷のためだろう、フォークリフトなども見える。詩人は、CDラジカセか何かを持参しており、「音楽は、空間現代」とか言って流し始める(わたしは未見だが、空間現代とは、この札幌国際芸術祭2017でセッションした。吉増は彼らと共に11月末にはヨーロッパツアーに出かけているはずだ)。洗濯を干すのに使うピンチハンガーに貝殻などをぶら下げている。

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わたしの書き写しの間違いもあるかもしれないが、「gozoCiné=石狩の方へ 書くということは(「詩」を書くなぞという貧しいことも含めて……)、あたりを、……/掘っては埋める……(「彫刻」とか「彫塑」ではいいきれなくって……)/宇宙的な行為or仕草であることが、はっきりと自覚することが出来た、石狩河岸での、/一日のCinéづくりでした……。感謝を……。25Jun.2017.AM.5:30SAPPORO」というタイトル(?)が付されている。gozoCinéとは11年ほど前から開始された映像シリーズで、その最新作ということになる。

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銅板に文字を打ち込みながら(これも彼の長年続けている行為だ)、見えているものを言葉にしていく。「おーい、フォークリフトよ」などと呼びかけたり、「こういうふうに文字のクマドリをしていて、こうしてウツ、打っていく、この時に聞こえる音、見ているものが、これが時間なんだ」と呟いてみたり、かつては「ロードムービー」とも自称したようだが、即興的なこの映像作品に映り込むのは、本人の視界に近似した世界である。洗濯を干すのに使うピンチハンガーはいつも持参しているもので、貝殻やゴヤの絵のコピー(?)など、まさに「ガラクタ」をぶら下げている。
映像は、続いていく。ススキノの百貨店地下のスターバックスで、ソイラテを飲みながら文字を書き付けている映像もある。長居するつもりのようだ(「これ、おかわりしますけどね」と吉増は言う)。朝7時前、テレビの天気予報を気にしている映像もある(ピンチハンガーの紹介もする。「いつも持っている」と吉増は言う)。北大総合博物館で展示物の鉱物(メノウ)をピンチハンガーと共に見学している映像もある(「こういうのを見るという瞬間が、いま、成立しました」と吉増は言う)。映像は、詩人の目そのものとなって、言葉を伴いながら続く。そう、「続く」ということが、彼がこの映像でやっていることである。昨日のクリスチャン・マークレー作品からわたしが受け取ったメッセージ「お前さん、急いでるんだろ」とは反対のメッセージをここに感じ取ることができる。時間を気にせず、スタバで、紙に文字をひたすら書き付けながら(「しょうがないねえ、インクが出ないぞ」と吉増は言う)、もうちょっといいじゃないか、と、こちらを引き止める。お前さん、もう少しゆっくりしたらいい、そう呪文をかけるような言葉の、声の魅力があり、その場から去りがたい。

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しかし、先を急がなければ。駆け足で進まなければ午後6時の便に乗り遅れてしまう。
モエレ沼公園での展示を見逃すわけにはいかない。北大からずいぶん離れているから、時間の節約のためにタクシーで向かうことにする。イサムノグチの構想によるこのモエレ沼公園は、広大な場所であり、注意が必要だ。「じっくり」ではなく「かけあし」で。何度も言い聞かせる。車のなかで靴紐を結び直し、ガイドブックを握りしめる。空港に向かう時間だけでなく予定の字数もなくなってきたようである。というわけで、以下、恒例のダイジェストで!

モエレ山。この山のどこかに伊藤隆介の作品があるはずだが……

モエレ山。この山のどこかに伊藤隆介の作品があるはずだが……

山の稜線に何か置いてあるようだ。頂上まで、続いているようである。登らないといけないのか。これは「かけあし」はキツイ! 無理だ! しかしわたしは彼の作品を楽しみにしてきたのであり、見逃すことも無理だ

山の稜線に何か置いてあるようだ。頂上まで、続いているようである。登らないといけないのか。これは「かけあし」はキツイ! 無理だ! しかしわたしは彼の作品を楽しみにしてきたのであり、見逃すことも無理だ