アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#53
2017.10

まちと芸術祭

1 札幌国際芸術祭2017の公式ガイドブックを片手に(第1日目)

時間を元に戻す。
8月27日、日曜日、午前10時、mima三岸好太郎美術館を訪ねる。大友良英と三岸好太郎の展覧会を見るためである。「お月様まで飛んでいく音 大友良英アーカイブ+飛ビ出ス事ハ自由ダ 三岸好太郎ワークス」と題された2人展。札幌国際芸術祭2017公式プログラムである。前者は札幌国際芸術祭のゲストディレクターであり、後者は戦前に活躍した地元で最も著名な画家。ガイドブックには「ジャンルや枠組みを飛び越えて、それぞれの表現をひらいてきたふたりの軌跡が、吹き抜けの空間にクロスする」とある。
この取り合わせはとても魅力的だ。2人に接点がまったくないように思えるからだ。一方は今、最も精力的に活動する音楽家。他方はすでにその活動を終えた夭折の画家。一貫して初期から即興的なスタイルを保持する、柔軟でありながらも頑固なギター弾きの男と、躊躇なくスタイルにその都度はまりながらも、スタイルを消尽することで独自の境地へたどり着こうともがいた男。まるで音楽家の方がすでに死んでその活動が完結したかのように「アーカイブ」と銘打たれ、すでに死んでいる方がまるで今なお現在進行形で制作している現役の画家のように「ワークス」とその名前に結びつけられている展覧会タイトルも面白い。「飛ビ出ス事ハ自由ダ」は、三岸好太郎の詩の一節である。直前に「而シ押エラレタピンヲハネノケテ」とあり、「飛ビ出ス事ハ自由ダ」と続く。標本の蝶が、ふたたび外界へと飛び出す様を書いているのだが、それは彼の「飛ぶ蝶」と題された作品のことを直接示すようでもあり、彼の画業全体を言い表してるようでもある。この「自由」という一点で、もしかしたら両者は「クロス」するのかもしれず、この場所をぜひとも札幌国際芸術祭の「スタート」としたかったのだ。

ところで、繰り返すが、今は8月27日の午前10時である。
この場所に来てみて気づいたのだが、「大友良英アーカイブ+三岸好太郎ワークス」展の会期は1週間後の9月2日土曜日からであった。