アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#52
2017.09

横道と観察

2 細馬宏通 × ほしよりこ 対談 
2)セリフと関西
「ことばの増減がすごく効いてる」(ホソマ)

ここで、登場人物のかんたんな紹介を。主人公の逢沢りくは14歳の中学3年生。お父さんはアパレル会社の社長で、若い社員を恋人にしている。お母さんはりくを生んで専業主婦になった、完璧主義のできる女性。りくが預けられる関西の親戚の家には、おじちゃんとおばちゃん、高校生の息子(次男)が住み、長男の息子で幼児の時ちゃん、時ちゃんのお母さんやお兄ちゃんなどが出入りする。ちなみに、りくの家で訳ありで飼っている、愛せないインコも関西に連れていった。

細馬 絵だけでなくて物語のことも話そうと思うんですが、まずはセリフのこと。特に関西弁でようしゃべるおばちゃんがどんどん細かいことに入っていくひとで。ふつうの物語作家やったら、こんな細かいことにこだわるセリフは言わせへんやろうなって思ったり。あと、1コマにこんなに詰め込まへんやろうなっていうぐらい細かいことを言ってくるねんね。あそこまで入り込んだら、本筋帰ってこられるのかなって思うけど、帰ってくる。

ほし でも遠回りしますね。あそこまで長くなったのは、そういうぐだぐだっとしゃべったことが膨らみすぎたから。

細馬 あとね、これおもろいというか、この本のクセみたいなものかもしれへんけど、だんだんことばが多くなってきて、1ページとか見開き単位でだんだんセリフがわーっと増殖するみたいな感じがあるでしょう。で、しかもそのセリフの増減が感情を表しているような感じなのね。おばちゃんのところに行ったらすごい機関銃みたいに関西弁が蔓延してきて、もうコマに入らへんやんみたいな感じのときに、りくも関西弁が苦手やからうぇーってなってるんやけど、読者にも、そのおばちゃんの来客を迎えた興奮がぐわーっとくるの。関西人の僕ですら、画面から関西弁の圧がきてそれがすごくぐっとくるのね。

ほし 麒麟の川島さんがそれ言ってました。「見て、セリフががーって書いてあって、やかましいわ!」と思うって。

細馬 画面がやかましい。

ほし 見て「やかましいわ!」って感じがすごい出てくるって。

細馬 関西弁もだし、お母さんの標準語もそんなところがあったような気がするな。お母さんがしゃべっていって、だんだんわーってなるような。たとえばりくの関西行きを説得するところとかね。お母さん的には説得しているような感じなんやけど。ことばの多さによって、お母さんに説得以上のなんか理由がある、って感じがするのよね。あれは不思議な感じがしましたね。画面のことばの増減があんなに効いてくるマンガってあんまりないんじゃないかな。
かと思えば、全然しゃべらへんときもあるじゃないですか。このテンポって、だんだん吹き出しが多くなるっていう感覚はご自分ではあるんですか?

ほし そうですね。やっぱりしゃべらせるとそうなりますね。

細馬 口火を切るとって感じ?

ほし そうですね。東京のシーンと関西に行くっていうシーンのコントラストがすごくほしかったので、関西が始まったシーンはばーっと一気に流れ込んでくる洪水みたいにしたかったんです。

親戚の家に着いたとたん、関西弁の洪水が。関西ローカルのテレビ番組『ちちんぷいぷい』が出てくるところまで、関西に住んでいると、すべて「あるある」

細馬 おばちゃんが小鳥を見て「かしわ」とか言い出すんですよ。あれは現実に誰か言ってるひとがおった? それとも頭のなかでこういう会話を考えたの?

ほし ありましたね。現実に言ってるわけじゃないんだけど、まあ言うやろうな、こういうこと、と。

細馬 いやいやいや。生きてる小鳥見て「かしわ」って名前にしようとふつう思う? これは、ただの関西人のセンスじゃないと思うねん。もっとダジャレとか気の利いたことは、みんなお笑いが好きやから考えたりするかもしれないけど。
生きているものとしてかわいいと認めているのに、一方で食べものの「かしわ」が浮かぶ。その「かしわ」をどんどん会話に取り込んでしまう。そこに、この家族独特の「いきもの」観が出てる。『僕とポーク』みたいなね。ただのほんわか家族とはちょっと違うような感じが僕はしたんですね。読みすぎかもしれませんけど。

ほし でも、そう思っていただきたいんですよね。典型的なように描いているけれど、ひとつひとつの家庭は違うから、ちょっと違うちょっと変な家でもあると思うし。
やっぱり、設定としてもすごく変なんですよね。いきなり転校するのに、お母さんも行かないじゃないですか。親戚も、これまでなんか会えへんかったのに、喜んで泊めてたりするじゃないですか。あともうひとつ、こんな男の子ばかりいるところに年頃の女の子が行くってなにか違うことが起こりだすとか、そっちの方面になりそうな感じだったんですけど、そちらには寄っていかなかったんですよね。

細馬 歳もそんなに変わらないこの家の息子が、ちゃんと職員室に案内してやったりだとか、ちょっとええこと言ってみたりとか。ひととしての付き合いはしているけれど、男女の付き合いではない。その一方で、お父さんお母さん世代のややこしさ。特に東京のお父さんとお母さんのややこしさったらないよね。