アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#52
2017.09

横道と観察

後編 細馬宏通 × ほしよりこ 対談 
1)鉛筆画の濃淡
「ペン画のひととは圧倒的に違うよね」(ホソマ)

細馬 僕はけっこうkindleでマンガを読んでいるんですが、ペンの線は細い太いあるけど、太さの周りに輪郭があるじゃないですか。 そしたらそのなかは割と均一なんですよね。だから真っ黒な線が太くなったり細くなったりしていて、輪郭に電子版で多少ディザがかかっても、なかは真っ黒だからまあいいかな、って感じ。
でも、ほしさんの線は鉛筆なんで、太い細いだけじゃなくて、太い細いのなかに濃淡があったり、紙の返り、肌理みたいのがけっこうあって、それが決定的なので、電子書籍でその濃淡が見えにくいと「ちょっと違うかな?」って。

ほし そうですね。(単行本から)文庫になって、違って。文庫になったら印刷がまた変わってるんで、それから電子書籍になったらもう全然変わっている感じです。

細馬 単行本のほうは、原稿より縮小されているの?

ほし ほぼ一緒です。『逢沢りく』はちょっとだけ縮小されているかな。A5の紙に描いてたので。

細馬 逢沢りくの表情って、ちょっとした濃さ、目とか口とかの濃さでも出てくるでしょう。ときどき、「この子まつげあるかも」って感じのときがあって、それはまつげの1本1本の線が出ているというよりは、目元がギュッと濃く引っ張ってあって、その感じが「あ、これはまつげの分厚さかも」って。屋上とかで寝っ転がったときとか、鉛筆の濃淡で、まつげあるある感出してるよね。あれはすごく面白いなって。そんなことやから余計に、電子書籍にするときにスキャンの感じとかで変わるかな、って思って。

ほし そうですね。文庫にしてもだいぶ変わるから。単行本の印刷は、スミの4色の濃淡を使ってるんですね。(デザイナーの)有山さんのこだわりがあって。文庫になったらそこまではできなくて、スミ1色になるから、鉛筆はやっぱりつぶれる。ペンみたいに見えますよね。

細馬 そうだよね。さっきも言ったけど、鉛筆って太さのなかに濃淡があるのが特徴やから、ペン画のひととは圧倒的に違うよね。
鉛筆以外にも、ほしさんの絵ってすごく特徴があって。たとえば、マンガ表現としてどうかしてるって思うのは背景。こんなに背景を描かないひとは珍しい。これはもう始めっから描く気がないの?

ほし 描く気……描く必要がなかったら描かないですよね。

細馬 すごく構図にはこだわっているところってたくさんあるんですけど、背景はほとんどない。一番最初とかも、マンガの出だしとして、この欲のなさは本当にすごい(笑)。この1ページで右側の余白の取り方。ちょっと尋常じゃないですよ。

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(上)出だしのカット(下)上/下巻それぞれの題字ももちろん鉛筆。フォントも微妙に変えている

(上)出だしのカット(下)上下巻それぞれの題字ももちろん鉛筆。フォントを微妙に変えている