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アネモメトリ -風の手帖-

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#49
2017.06

移住と仕事のいま

3 フレキシブルで柔軟な「チーム東吉野」 奈良・東吉野村 
4)フレキシブルで柔軟な「チーム東吉野」

オフィスキャンプができてから、東吉野とその周辺に移住してきたひとは、20人あまりときく。いまやクリエイターの幅も広がって、デザイナー、写真家、編集者、アーティスト、漫画家……。それぞれがフリーランスで仕事をしている。
さらに、クリエイター同士がゆるやかなつながりを持っているため、デザイナーチームを組んで大きな仕事に取り組むこともある。プロダクト、広告、ウェブ、紙媒体……依頼内容に合わせて、チーム編成は自在に変わる。東吉野周辺に在住するクリエイターの層が厚くなったからこその展開だ。
「僕は方向性を粗く決めるだけで、あとはチームの全員が自由に感じて、主体的に動いてもらう。その結果、自分たちの想像以上の仕上がりになっていく。ふだんピンでやってるひとたちだから、そういう動きができるんです」と、チームのとりまとめを担う坂本さんは言う。
これこそが、東吉野のデザイナーチームの強みだろう。仕事に柔軟な個性が生まれ、それが評判となって、「東吉野のクリエイターたちに仕事を頼みたい」と声がかかる。

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東吉野近辺のクリエイターたちは、オフィスキャンプで打ち合わせすることも多い。デザイナー廣瀬佑子さんの後ろに見えるポスターも、東吉野のクリエイターたちが手がけたプロジェクトだ

東吉野近辺のクリエイターたちは、オフィスキャンプで打ち合わせすることも多い

2016年から手がけているのは、近鉄電車と奈良県が共同で企画する旅行パッケージだ。総合ディレクションが坂本さん、ポスターの撮影は西岡さん、デザインは林業兼デザイナーの廣瀬佑子さん。今年は、最近移住してきた漫画家・元町夏央さんも加わった。
『d design travel』の取材では、出会いが広がった。編集部がオフィスキャンプを訪れたことがきっかけで、西岡さんは広告ページや編集ページの撮影を担当することに。さらには今後、奈良に限らず地方の取材に、坂本さんと菅野さんが関わる予定だ。そこには、彼らの仕事が広く知られることで、オフィスキャンプと坂本さんたちの活動が続くようにという、編集部の共感とエールがある。

クライアントは奈良県内にとどまらず、最近は関西圏、さらには全国圏に広がりつつある。奈良県奥大和移住交流推進室の福野さんと坂本さんが思い描いた「クリエイティブビレッジ」が、まさに育ちつつあるのだ。それも、樹木がゆっくりと葉を茂らせていくように、木々の実が熟すように、ゆっくりと。それが東吉野らしい、クリエイティブのあり方かもしれない。

次回は最終回。ある研究者の、この村に私設図書館をつくる活動を通して、東吉野のこれからを考えてみたい。

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オフィスキャンプ東吉野
http://officecamp.jp

西岡潔
http://www.nishioka-kiyoshi.com

エーヨン
https://www.designofficea4.com

取材・文 渡辺尚子
ライター、編集者。「手から生まれるもの」をテーマに、雑誌や単行本の執筆をおこなっている。著書に『ひかりのはこ スターネットの四季』(アノニマ・スタジオ)、『うれしい手縫い』(グラフィック社)他、共著に『糸と針BOOK』(文化出版局)、『創造の現場。』(CCCメディアハウス)など。「暮しの手帖」で「ひきだし」を連載中。たねや冊子「ラ・コリーナ」の取材もおこなっている。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’s KEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。

編集:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。