アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#49
2017.06

奈良・東吉野村 移住と仕事のいま

3 フレキシブルで柔軟な「チーム東吉野」
3)“主夫”をしながら、風土に見合ったデザインをじっくり探る
デザイナー・菅野大門さん

いろり会の翌日、菅野さんが桝井奎一さんの木工作業場を案内してくれた。桝井さんは生粋の東吉野人で、趣味が高じて作業場をつくり、休日に家具などを製作している。菅野さんも桝井さんの作業場を借りて試作をすることも多く、顔を合わせれば軽やかな会話が始まる。

「菅野くんの知り合い、本当に移住してくるん? 木工をやりたいって言ってるんやろ」
「ええ、そうです。ここでもお世話になると思います」
「よし。彼がここを使えるよう、掃除しておくわ」

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菅野さんが上手にツッコみ、桝井さんがボケる感じが絶妙。ふたりの信頼関係が伝わってくる。菅野さんは、この工房を自由に使わせてもらっている

桝井さんがボケて、菅野さんが上手にツッコむ感じが絶妙。ふたりの信頼関係が伝わってくる。菅野さんは、この工房を自由に使わせてもらっている

桝井さんは、オフィスキャンプにも顔を出し、そこに集まるひとたちにさりげなく手を貸してくれる。
「東吉野は、年に50人~100人と人口が減ってる。僕は、いつか村がなくなるんじゃないかと危機感を持ってるんですよ」と表情を引き締める桝井さんに、菅野さんが返す。
「でも桝井さん、木工志望の彼はこの作業場があるから、引っ越してこられるようなもんですよ。すぐに仕事できるって喜んでますわ〜。家族で越してこられて、この村に4人も人口が増える!」
その言葉に、桝井さんがくしゃっと笑った。

菅野さんは、プロダクトデザインレーベル「エーヨン」を立ち上げ、ものづくりに取り組んでいる。
一家で大阪から越してきたのは、3年前。ここに暮らしていると、プロダクトの素材には困らない。吉野杉は家具や玩具に、吉野和紙は生活雑貨に。素材とゆっくり向き合って生まれたもののひとつが、吉野和紙のコースター。近くの和紙職人と一緒に、試作から完成まで3年をかけた。

———長い時間かけて改善していったほうが、長く売れるものができると思っています。かといって永遠とはいかないので、せめて50年ぐらい使われて、最後は使うひととともに役目を終えるものがいいと思うんです。

菅野さんの移住をきっかけにオフィスキャンプが誕生したのは、前回ご紹介したとおり。だが現在、菅野さん自身はオフィスキャンプに常駐していない。妻が仕事に就いたのもあり、菅野さんは4歳と1歳の子どもたちを保育園に送り迎えしたり、家事をしながら、自宅で仕事をしている。主夫とデザインの仕事を半々。そんな日常を営みながら、少しずつ、地元の職人や手仕事関係の方たちとの関わりを深めてきた。
桝井さんが木工職人志願者に快く工房を貸すのも、菅野さんとのつきあいが下地にあるからだ。一足先に住人となったクリエイターが、あとから来る人々と、地元のひとを結んでいく。こうして地域のネットワークが広がって、新しい風がわたる。

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オフィスキャンプに並ぶ「エーヨン」のヒット商品。多面体にカットした木を自在に積み上げる、積み木のおもちゃ「tsumi-ishi」と、モリサワの活字を使った「活字ブックマーカー」

オフィスキャンプに並ぶ「エーヨン」のヒット商品。多面体にカットした木を自在に積み上げる、積み木のオブジェ「tumi-isi」と、フォントメーカー・モリサワとコラボした栞「活字ブックマーカー」