アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#49
2017.06

奈良・東吉野村 移住と仕事のいま

3 フレキシブルで柔軟な「チーム東吉野」
1)小さな炎のある場所で 集い場としての「いろり会」

やさしい集まりにまぜてもらった。いろりに煙が立ち上り、おいしいものの匂いが満ちている。炉を囲む誰もが穏やかに笑っている。東吉野村周辺の仲間が写真家の西岡潔さんの家に集まり、いろりを囲んで過ごす「いろり会」だ。いろりは、「火のある生活をしたい」と願っていた西岡さんが、この家をリノベーションするときに、地元の大工にしつらえてもらったもの。ほどなく、このいろり端は、移住してきたクリエイターたちの「集い場」になっていた。
この日の参加メンバーは、西岡さんと妻の愛さん、菅野大門さん、坂本さん、東吉野村近郊・宇陀市在住の編集者・赤司研介さん。最近移住してきたばかりの現代美術家、武田晋一さんと陶芸家の比留間郁美さん夫妻も加わった。
川でとった鮎を西岡さんが炭火にかざし、比留間さんと愛さんの手料理が並ぶと、まずは乾杯。いろりを挟んで話が弾む。

「こっちの冬って寒いよね。灯油ストーブだけだと寒くって」(比留間さん)
「この足用の湯たんぽがあったかいの。履いてみる?」(愛さん)
「鮎、そろそろ焼けたで。誰から食べる?」(西岡さん)
「お、料理のあるうちに焼けるようになったんや。これまで、鮎焼けるのは宴会の終わりぐらいやったもんな(笑)」(坂本さん)
「赤司さん、きょうはもう帰ってしまうの?」(西岡さん)
「愛妻家やから、すぐに帰りたいんだって!」(菅野さん)

いろりは昔から人々の集いの場として機能してきた。火にあたって情報を交換したり、会話を楽しんだりしながら、ほどけた心を通い合わせる。
古くからこの地に住まうひとたちの日常からは、いろりばたの時間はとうに消えてしまったけれど、この伝統的な風習をいま、新しい住人がコミュニケーションの手段としている。東吉野村のクリエイターたちが健やかでいられるのは、そのおかげかもしれない。

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鮎と寸胴鍋いっぱいの「みそスープ」をはじめ、ごちそうが並ぶ。炭火を囲むとみんな笑顔に。店にいるのとはまた違う、気楽でぜいたくな集い / 左から坂本大祐さん、菅野大門さん、西岡愛さん、比留間郁美さん、西岡潔さん、武田晋一さん、赤司研介さん