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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#48
2017.05

奈良・東吉野村 移住と仕事のいま

2 行政と移住者、地元の人々の発展的な関わり
1)地域発信の新しいステージを告げる「オフィスキャンプ東吉野」
仕事を生み出し、移住を促進する

「奥大和」は、奈良県南部・東部を指す呼び名である。都市部に近い宇陀市や明日香村から、独特の風習が残る十津川村まで、奥大和の19市町村はそれぞれに個性がある。
なかでも東吉野村は、いわば奥大和の玄関にあたる。ここに「オフィスキャンプ東吉野」が誕生したのが、2015年のこと。せせらぎの音と鳥の声が聞こえるのどかな山村は、人通りも車の往来もかぎられる。だが、このシェアオフィスにはさまざまな業種の若い人々が出入りして、常に活気がある。
シェアオフィスでありながら、移住・定住推進の一助を担う。これが「オフィスキャンプ東吉野」の特徴だ。「移住希望者には、まずここを紹介しますね」と言うのは、奈良県庁の地域振興部・奥大和移住交流推進室の石井一史さんだ。

———『奥大和に移住したいけれどまだ気持ちが定まっていない』というひとに会うと、『熱いところがあるんで寄ってください』と、オフィスキャンプ東吉野に連れてくるんです。ここは移住者の集まるところですから。

訪れたひとは、そこで繰り広げられている光景に驚く。奥大和在住のデザイナーが、プリンタ複合機で企画書を揃えている。クライアントとの打ち合わせをしているひともいる。都市部から来たクリエイターが2階に滞在しながら作品を仕上げている。学生がミーティングをしている。地元のひともカウンターで、コーヒーを飲みながら世間話に花を咲かせている。地方自治体からの視察団体も入ってくる。
奥大和エリアの具体的な生活情報を得られるのも、この場所ならでは。希望すれば、ここに滞在しながら地元の仕事を体験したり、職場や住宅を斡旋してもらったりもできるのだ。移住希望者はそこから土地の空気をつかみ、生活者としての視点を広げていく。

クリエイターから移住希望者、行政関係者まで。さまざまなひとがわざわざ足を運ぶのは、坂本大祐さんに会いたい、話したい、ということも大きい。坂本さんは東吉野在住のデザイナー。「オフィスキャンプ東吉野」の内装設計を手がけ、現在は管理運営も任されている。

———「オフィスキャンプ」っていう名前は僕が考えました。「キャンプ」って、「仮の場所を自分でつくる」という意味があるでしょう。そこに、仕事するという意味の「オフィス」をつけたんですね。仕事をオフィスとして捉えるなら、遊びはキャンプ。そのどちらか一方ではなく、どちらもやっていくような働き方がなんとなく増えていけばいいな、と。(坂本さん)

坂本さんがコーヒーを飲みながら打ち合わせをしていると、世間話の流れから、ちょっとした相談を受ける。サイトを立ち上げたい、こんな物件がある、こんな人材を探している、こんなことでちょっと困っている、等々。話を聞いていた坂本さんは、ここで知り合った何人かの顔馴染みを思い浮かべる。小さな仕事ならそのなかのひとりふたりを紹介すればいいし、大がかりな仕事なら何人かでチームを組めばいい。
地方自治体や企業の大がかりなプロジェクトが、こうしていくつも生まれた。大都市のデザイン事務所や広告代理店を頼らずとも、クリエイティビティの必要な仕事を発信できるから、地元で経済が回りはじめるのだ。そうやって大きな仕事を生み出しながらも、坂本さん自身は変わらず穏やかに人々を迎える。「オフィスキャンプ東吉野」が常に賑わっているのは、設備の充実だけでなく、彼の人柄によるところが大きいのだ。
オフィスキャンプ立ち上げのきっかけとなった共同運営者のプロダクトデザイナー、菅野大門さんも「オフィスキャンプの中身は、大ちゃんです」と明言する。

———オフィスキャンプってかっこいいね、とか、うちでも真似しよう、っていう方も結構いらっしゃるんですけれど、中身に座っているひと(坂本さん)がいいから、これだけたくさんのひとが来てくれる。一朝一夕でできることじゃないと思います。

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大阪から吉野町に移住したデザイナーの廣瀬佑子さんが、プロジェクトでつくった手ぬぐいを坂本さんたちに見せ、意見をもらっていた / 奈良県主催、大阪で不定期に開かれる「奥大和移住セミナー」の打ち合わせに来た奈良県庁の地域振興部・奥大和移住交流推進室の石井一史さん(左)と柴田昌和さん(右) / プロダクトデザイナーの菅野大門さん

大阪から吉野町に移住したデザイナーの廣瀬佑子さんが、プロジェクトでつくった手ぬぐいを坂本さんたちに見せ、意見をもらっていた / 奈良県主催、大阪で不定期に開かれる「奥大和移住セミナー」の打ち合わせに来た奈良県庁の地域振興部・奥大和移住交流推進室の石井一史さん(左)と柴田昌和さん(右) / プロダクトデザイナーの菅野大門さん