アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#45
2016.11

本、言葉、アーカイヴ

後編 共有し、受け渡していくために 宮城・仙台
3)聞いて、語って、体験を同期する
3.11オモイデアーカイブ 佐藤正実さん2

アーカイヴとは写真や映像にタグ付け*していくことと思われがちだが、佐藤さんは言葉で語ることがとても大切だと思っている。
(*タグ付け……ファイルや情報にタグ(短い単語やフレーズ)を付けて整理する方法)

———わたしはタグ付けにはまったく興味がないんですね。それよりも写真にどんな記憶や想いがあるのか。「自分ごと」にするっていうのもそうなんですけど、究極的には、アーカイブは体験の同期じゃないかと考えているんですよ。
例えば、戦前や戦時中の写真があると、体験したひとが話してくれます。写真だけでは伝わらないことがたくさんあると思います。聞けば聞くほど物語が積み重なると思うんですね。聞くことによって体験が同期できて、こんな意味があるのかとわかってくる。震災体験にしても、仙台と熊本ではそれぞれ違う震災体験なんだけど、同じものもあるんですよね。距離や時間軸が離れていても共有できる、同期できるのがアーカイブの役割だなと思っています。

佐藤さんはそれを津波の被害を受けた仙台市の沿岸部で行っている。「3.11オモイデツアー」は、まず、清掃を手伝ったりして、現地の方々のつくってくれたごはんをいっしょに食べて、地区の昔の写真を見せてもらう。そしてそのあと、更地となった土地をみんなで歩くというものだ。

———続けているのは、参加者に昔の写真をまず見せること。その写真をもとに、現地のひとの思い出を語ってもらうこと。また、参加者がその写真と現地の語りで、更地化されてしまった荒浜から、震災前のまちをイメージしてもらうこと、ですね。アーカイブの利活用という意味では、ひとつの見せ方だと思っています。

見せる写真は、いつもほとんど変わらない。変わるのは「語り手」だ。お母さんたちがメインの場合もあれば、お父さんたちの場合もある。それだけで、同じ写真から出てくる語りはずいぶん変わってくるという。主に男性は歴史を、女性は生活を語る。また、何人かで話すことによって、思い出されることも違ってくる。
よく考えられたプロジェクトだが、このかたちに落ち着くまでの試行錯誤もあった。

———「3.11オモイデツアー」の前に、「もう一度見てみよう3.11ツアー」というのをやっていました。震災直後に撮られた写真をもとに、どう復興しているのかを自分で見てほしくて、参加者に蒲生と荒浜、名取市閖上沿岸地区をまわって、写真を撮ってもらったんです。
わたしは震災前のその場を知っているので、変わりようがわかるんですけど、たとえば東京から来られたひとは、発生後の写真を見てもぴんとこない、と。どのまちも更地だし、雑草が生えてるし、差がわからないって。これだととても”自分ごと”にならないと思って、3年目にコンセプトを「震災前のまちとひとに会う」に変えて、今のかたちにしたんです。

最初の荒浜を訪ねたくだりにも書いたけれど、その前を知らなければ、わたしたちは今の風景からかつてを思い浮かべることは難しい。その場に身を置き、過去の写真を前に、その土地のひとの話を聞くことで、初めて前のすがたが見えてくる。続いてきた時間が、ほんの少しでも見えてくる。

unspecified-3

2016年9月3日3.11オモイデツアーin蒲生 (4)

荒浜で行われた「3.11オモイデツアー」(写真:3.11オモイデアーカイブ)