アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#44
2016.10

本、言葉、アーカイヴ

前編 これからを「本」でひらく 宮城・仙台、石巻
6)まちの本屋の、新しいありかたを
石巻「まちの本棚」 勝邦義さん2

なんと、まちの名物書店のあった場所で、「まちの本棚」を始められることになったのである。

———ここはもともと「躭書房(たんしょぼう)」という書店でした。初代の店主がかなり思想的な本を扱う方だったそうで、石巻の本好きがこの店は違うと一目おくような場所だったらしいですね。
とはいえ、まちなかの本屋さんは震災前からもうなくて、「躭書房」も例にもれず、震災の数年前にもう店をたたんでいたんですよ。でも、廃業した後も「躭書房」のお母さんはビルの2階に住んでおられて。ビルのオーナーでもあったので、たまたままちの寄り合いで声がけして、紆余曲折ありつつも借りられたので、なにか縁深いものを感じています。

驚くような展開だけれど、本であれば、そんなこともあるのかと妙に納得してしまう。
店のつくりかたとしては、「いろんな使い方ができる」ことを考えた。いわゆるマルチスペースだが、本棚のスペースがギャラリーになったり、物販ができたりするようなフレキシブルな設計を心がけた。

———いろんなひとがいろんな目的で来られて、長い時間いられる場所にしたかったんです。本棚は結構大きめに設計しているんですけど、この一角にクラフトとかを置いて売るのもいいなと思いますし、壁には平面の作品を展示してみたり、写真展をしたりっていう使い方ができたら、とか。ゆくゆくはカフェもできればと思っています。最終的には本につながるけど、本じゃない使い方もできるっていう。

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シンプルな店内は、手づくりの素朴な感じが好もしく、オープンな明るさがある。これからどんどん変わっていきそうな可能性を感じる。

今のところ、「一箱本送り隊」が送ってくれた本を中心に、ストックは約2,000冊。震災後はしばらく、「一箱本送り隊」に届く本から選書してもらっていたが、今では送りたいという方に直接いただいている。
店が開くのは週末と水曜の夜。訪れるひとは本を読んだり、スタッフとおしゃべりしたりして、思い思いの時間を過ごす。本は2週間借りることも可能だ。さしずめ、「本に囲まれたコミュニティスペース」というところだろうか。スタッフは勝さんに、店長の阿部史枝さんの他女性が3名。それぞれ仕事を持ちながら、空いている時間や休日を使って入っている。阿部さんに、お客さんについて聞いてみた。

———半分は静かにして、半分はスタッフとコミュニケーションをとって帰っていく。近所の方も多いですが、旅行者の方が「ここは何ですか?」と尋ねられることも。結局入って来られて、ゆっくりしていかれたり。親子連れもいらっしゃいますね。
来られる方が言うには、仕事場や家庭という日常があるんだけれど、それ以外のことに集中できるのがいい、と。具体的には親の介護をしているなかで、こういう場所ができて休んでいけて、本が読めていい、とか。

いっしょに話を聞きながら、勝さんが「やってみて、本のことをしゃべりたいひとはたくさんいるんじゃないかなってことはわかりました。誰かとシェアしたいという感じ」と言い足した。やってみた実感から、まちの本棚の次が始まっていく。

勝 邦義さんと阿部史枝さん

勝邦義さんと阿部史枝さん