アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#44
2016.10

本、言葉、アーカイヴ

前編 仙台・石巻 これからを「本」でひらく
5)静かに、熱く。日常的な本の拠点をつくる
石巻「まちの本棚」 勝邦義さん1

「こっちなんだろうな、未来は」という言葉に導かれるようにして、石巻「まちの本棚」に向かった。仙台から車で約1時間半、石巻はこぢんまりとしながらも、どこかしっとりと風情あるまちだった。
石巻は東日本大震災の震源地に最も近く、津波の直撃を受けた自治体でありながら、復興がかなり進んでいる。ひとつには、震災後まもなく立ち上がった「ISHINOMAKI2.0」というオープンな集団の存在がある。「石巻を震災前の状況に戻すのではなく、新しいまちへとバージョンアップさせる」ことを目指して、建築やデザイン、広告関係から店の店主、NPO職員、そして学生に至るまで、石巻内外から集まるさまざまな専門家が多様に関わり、多くのプロジェクトをすすめる一般社団法人だ。

本の拠点「まちの本棚」も、そのプロジェクトのひとつとして誕生した。正確には「ISHINOMAKI2.0」と、被災地の本好きに本を届ける活動を行なってきた「一箱本送り隊」の共同プロジェクトである。本でひととまちをつなぐ試みが、B!B!Sとはまた違ったかたちで行われているのだった。
ディレクターは建築家の勝 邦義さん。横浜の設計事務所に勤めていたが、事務所がISHINOMAKI2.0の立ち上げに加わった関係で、2012年にこのまちにやってきた。「石巻、最高ですよ」とまちに惚れ込んだ勝さんは、ほどなくこちらに移り住み、ISHINOMAKI2.0が掲げる「復興ではなく、まちを新しく生まれ変わらせる」ことを目指し、エネルギッシュに活動をつづけている。
「まちの本棚」が生まれるもとになったのは、勝さんも関わっているイベント「ISHINOMAKI STAND UP WEEK」である。震災直後、地元のひとたちが100年近く続いてきた「川開きまつり」を意を決して開催したことから、新しいまちづくりの動きも並走しようと始めたものだ。そのなかの催しのひとつとして、2012年、石巻で初めて「一箱古本市」開催したことが現在につながった。

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オープンで温かみがある / 勝 邦義さん

オープンで温かみがある「まちの本棚」 / 勝邦義さん

———一箱古本市は2日間に及んで開催したんですが、50店舗ぐらい「一箱店主」さんが集まってくれて。みなさん一般の方たちでしたが、店主もお客さんも石巻内外から来てくれて、石巻に本を送りたいというひとも集まって、非常に盛り上がったんですね。

ISHINOMAKI STAND UP WEEKはお祭り的にイベントが盛りだくさんで、ミュージシャンのライブをはじめ、まちのひとを鼓舞するような催しも多かったけれど、まちなかに散らばって本を並べ、本を通じてそこに来たひとと交流する「一箱古本市」は、静かながら熱く盛り上がったのだという。さらに、勝さんの目には「石巻に合う」と思えた。

———ふだんはひとのいないまちなかを、ひとが歩いているのもよかったし、さらにまちなかを使って、石巻の外のひともなかのひともフラットに交流できたのも面白かったんです。
その後、まちをこれからどうするかというシンポジウムをしましたが、石巻にイベントとして本があるだけではなく、日常的にある場所があったほうがいいんじゃないかという話が出て。まちなかに本屋がないし、震災で失われた本も多いのではということもありましたし、そもそも本は遅効性というか、心に響くものだから、何か本の支援をして、長い目でやっていったらどうだろうと。それで、日常的な本の拠点をつくりましょうとなったわけです。

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(写真:(上)ISHINOMAKI2.0(下)石巻まちの本棚)

STAND UP WEEKのまちのようすと一箱古本市(写真:(上)ISHINOMAKI2.0(下)石巻まちの本棚)

本のある「日常」という話は前野さんからも出たけれど、石巻などでも、本のイベントで盛り上げるだけではなく、それぞれの場所で暮らす人々の日常を、本との関わりでどう豊かにするかという方向に向かっているようだった。
そしてもうひとつ、石巻に関しては震災前の状況もある。もともと本の文化が根づいていたのに、まちが斜陽になるにつれ、バブルの前にはまちから書店は消えてしまっていた。その意味でも、日常的な本の拠点づくりは、まちを「新しく生まれ変わらせる」ことにつながる。
勝さんたちはさっそく、かつてのまちの中心あたりで物件探しを始めたが、巡り合ったのは思いがけない場所だった。