アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#43
2016.09

挑戦し続けることの力

後編 「もの」と「ひと」の両面から目指す、幸せな島づくり
6)挑戦し続け、挑戦を引き継ぐために

「巡の環」の阿部さんは、サティシュ・クマールというイギリスの思想家の言葉を引用してこういった。「世の中に成果というものはない。すべてはプロセスでしかない」と。つまり、ある瞬間を見て、成功しているように見えても、現実はそのあとにもずっと続く。今この瞬間だけを見て成功云々をいっても意味はない。そこまでに至った経緯、そしてその先に続く未来のすべて見なければいけない、ということだ。

今回の取材で印象的だったのは、海士町のキーパーソンと言われるひとがみな、表現は違えど同様なことを言っていたことだ。事前に阿部さんから聞いていたように、成功したと思っているひとは本当に誰もいなかった。また阿部さんはこうも言った。「数々の問題に直面していることを理解してもらえず、成功した事例としてモデルとされる側の気持ちも考えてほしい」。

わたしも実際に島に来てみるまでは、詳しく知ることはないまま、ただ海士町を、華やかな成功事例らしいとだけ認識していた。そして実際に来てみると、メディアがほめたたえ紹介したくなるような数々の素晴らしさが確かにあった。人々が力を合わせたことで海士町が独自に切り開いてきた新たな可能性もたくさん感じた。

しかし最も大切なのは、「今海士町はうまく回っているらしい」ということではない。実際に来てみてわかったのはそのことだった。表面に見えていることの背後には、常に、悩み、考え、努力し続けているひとたちがいる。彼らが必死に動き続けることによって、今は確かにうまくいっているように見えるかもしれない。けれども、ひともまちも絶え間なく変化する。問題は常に無数にあり、新たに生まれ、当事者はずっと悩み考え続けているのである。
だからこそ、そのまちが持続可能であるためには、「挑戦し続けること」「挑戦を引き継ぐひとがいること」が何よりも重要になるのだ。

では、どうすれば挑戦を引き継ぐひとが生まれ続けるようにできるのか。
そのために教育がある。そしてそのために山内町長の言う「受け入れる側によるケア」が重要になるのだろう。何よりも大切なのは、やはり人間なのだということを再確認させられる。

海士町の現状は楽ではない。実情を知るひとはみな危機感を持ち続けている。しかしそこに悲壮感はなく、本気で乗り越えようとするひとたちが複数いる。そして、少なからぬひとを惹きつける魅力が、島そのものにも、島に住む人々にも満ちている。そこにこそ海士町の本当の強さがあるのだろうと私は感じた。

山内町長に話を伺ったのち、午後3時過ぎにフェリーで島をあとにした。その3時間後、本土の七類港に着きフェリーを降りた。すると海士町で過ごした3日間が、まるで別世界での出来事だったような気がしてきた。そして自分も、すでに「海士ファン」になりつつあることに気がついた。

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海士町
http://www.town.ama.shimane.jp

隠岐島前高等学校
http://www.dozen.ed.jp

隠岐國学習センター
http://www.oki-learningcenter.jp

あまマーレ
http://ama-mare.com/

取材・文:近藤雄生
1976年東京生まれ。大学院修了後、2003年より世界各地で旅と定住を繰り返しながらライターとして活動。2008年に帰国し、以来京都在住。著書に 『遊牧夫婦』シリーズ(全3巻、ミシマ社)、『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)。『新潮45』にて「吃音と生きる」、『考える人』にて「ここがぼくらのホームタウン」など、連載中。京都造形芸術大学/大谷大学 非常勤講師。http://www.yukikondo.jp/

写真:森川涼一
1982年生まれ。写真家。2009年よりフリーランスとして活動する。人物撮影を中心に、京都を拠点とし幅広い制作活動を行う。

編集:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。