アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#41
2016.05

幸せに生活するためのデザイン 雲仙小浜から

後編 「ソーシャル」の本来的なありかたを実践する
8)最後に、新しいしくみを試みるひとの話
WARANAYA・霜川剛さん

今回の取材では、雲仙小浜を中心に長崎の各地を見てまわった。それぞれの土地に個性があって、長崎の文化的な層の厚さを実感したのだけれど、最後にもうひとつ、城谷さんと小浜につながる、地に足のついた、クリエイティブな生活と発信を紹介したい。

小浜から車で小一時間ほど、大村市の山奥に居場所をつくり、「半農半カフェ」で生活するWARANAYAの霜川剛さんだ。これまでさまざまな場所を訪れてきたが、これだけ人里離れたカフェも珍しい。山を登っていくほどに人家はまばらになり、夜などは真っ暗で、最寄りのコンビニまで山を下りて車で30分はかかる。それだからこそ、生み出された空間はサンクチュアリのように平和で優しい。ファンも多く、特に土日は行列ができるほど人気がある。

店を始めたのは10年ほど前。ボロボロだった納屋を、妻のゆかりさんとともにほぼ自力で改装し、小麦や野菜を育ててカフェを営んでいる。家族はお母さんのほか、対州馬のサトコをはじめ、ヤギのタンジー、ねこのおかか。こう書くと、風変わりでストイックなイメージを持たれるかもしれないが、霜川さんはみんなに愛される、とてもチャーミングなひとだ。

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どこをとっても絵になる景色。サトコやタンジーも立派なWARANAYAスタッフだ。店内はロックテイストもありつつ、手づくりのよい塩梅

どこをとっても絵になる景色。サトコやタンジーも立派なWARANAYAスタッフだ。店内はロックテイストもありつつ、手づくりのよい塩梅

霜川剛さん

霜川剛さん

———長崎市の出身で、ここはたまたま来ただけなんですよ。以前はアパレルで服の販売をしていて、そこは服にまつわる物語があったからよかったんだけれど、でも「つくって、売って、給料もらう」というサイクルに耐えられなくて。それだけじゃなくて、今の世の中にも不満があって、アジアを放浪したり農業のアルバイトをしたりして逃げてたんですけど、「ここから下がったらひとじゃなくなる」ところで踏みとどまったんです。
給料もらって、ひとの金をあてにするんじゃなくて、自給自足で暮らすことをしたかった。自分で生活をやってみたかったんですね。

霜川さんが思い描き、実践してきたのは、自分の生活に責任を持つ、ということだった。自由であることは反面、きびしくもある。だから、戦後の開拓部落だった大村に根ざすことを決めたのは、ふさわしい選択だったのかもしれない。
城谷さんには、店を始めて2年くらいしてから会った。以来、サトコを連れて刈水デザインマーケットに参加したり、城谷さんに家の設計をしてもらうなど、親しいつき合いが続いている。

———最初はデザイナーと聞いて、城谷さんのこと、大っ嫌いだったんです(笑)。いえいえ、城谷さんではなくて、消費文化のなかのデザイン、デザイナーみたいなのが嫌だったから。こんなにものがあふれていて、すべてが手に届く場所にあるなかで、新たなものを生み出す意味が果たしてあるのか、と思っていたんです。当然循環もしないし、売れなければ意味がない。それが僕にとってはとても不自然だった。
もちろんすぐに、城谷さんの活動がそれとはまったく違うとわかったし、今ではとても尊敬していて、親しくさせてもらってるんですけどね。

城谷さんは「新たなものを生み出す意味があるのか」と自問しながら、活動を続けていることは前編でも述べた。生み出すだけがデザイナーの仕事ではなく、今あるものをつくり直したり、工夫して活用するなど、デザイナーがやるべきことはたくさんある、と。相通じる考えを持って店を始めていた霜川さんは、城谷さんと出会って、さらにぶれないWARANAYAを志していく。手探りでものごとを選択するなかで、なるべく客観的に自分を見て、心の声を聞くようにしているのだ。

———いろいろ、迷いまくるんですが、僕が決めてるんじゃなくて、WARANAYAが決めてるんです。WARANAYAは別人格で、僕らはそこで働かせてもらってる、という。
たとえば、店をはじめて3年とか5年も経つと、リニューアルするとか2店舗目を出すとかあるじゃないですか。今のところWARANAYAはいやだと。馬がいるから牧場カフェにするとか、乗馬クラブにするとか、あるいは友だちや知り合いの店を呼んで、ここをカルチャーエリアにするようなのもいやだ、と。

WARANAYAは霜川さん自身であり、この土地の景色、建物をつくったひとの気持ち、使われてきた年月などのすべてをあらわす存在なのだと思う。そこにお伺いを立てるというかたちで、霜川さんは、何かに捉われたり、見えなくなったりしないことを心がけているのだろう。とはいえ、ストイックではまったくなく、つねにユーモアと笑いをもって、楽しいことを続けていきたいという気持ちでいる。

———ほんとに冗談みたいに言うんですけど、ここのなかでいろんなものがまわっていくといいなあ、と。できるだけ自給自足で、できるだけまわりのひとと一緒にやっていきたい。農業だけに捉われるのでなく、商売に走るのでもなく。
WARANAYAの声をちゃんと聞いて、ひとに喜ばれたいんですね。

霜川さんはある意味、山﨑さんや古庄さんが目指す「新しいしくみ」をつくり、実践しているひとなのだと思う。自分は貧乏だと言うけれど、必要以上稼ぐことに興味もないし、稼ぐしくみは編み出していない。たとえば、ゆかりさんのつくる自家製小麦を使ったピザはとても美味しいけれど、味を究めたいというこだわりより、できるだけ自分でまかないたい、という発想によるものだ。その素朴なありかたに、心がすっかりあらわれる。

小浜の刈水庵と、大村のWARANAYAと。近い距離で、誠実な場がふたつあることは、互いにとっても頼もしく、喜ばしいことだと思う。
必要なだけを得て、仕事と生活を充実させること。その生きかたは、かつて言われた「清貧」とはまた違う。土地に根ざしながらも、外や世界とつながり、ひとやものの循環もある。オープンな明るさがあって、見ていてほんとうに心地よい。
知らなかった土地に根ざして生きることは、誰にでもできることではない。それぞれのライフスタイルもあるし、ご縁も必要だ。けれど、その生活をごく自然に、バランスよくやっていくことがより現実的になっているのはたしかだと思う。

小浜と大村のように、異なる道筋からやってきたひとたちが、土地の豊かさを受け取りつつ、よりよいかたちで返し、その土地もひとも潤っていく。そこには、衣食住におけるスキルであったり、新しいしくみを考える発想が少なからず必要だ。けれど、試行錯誤しながらも、できるだけのことを自分で手がける実感は、今まさに求められていると思うし、これからいっそう必要とされていくのではないだろうか。

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ゆかりさんが小麦をこねてつくり、かまどで焼くピザ。美味!

ゆかりさんが小麦をこねてつくり、かまどで焼くピザ。美味!

スタジオシロタニ
http://www.koseishirotani.com/

刈水庵
https://www.facebook.com/karimizuan

オーガニックベース
http://www.organic-base.com

WARANAYA
http://r.goope.jp/waranaya

取材・文 : 村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。

写真 : 林口哲也
フォトグラファー。プロダクト、クラフト、美術展示、舞台公演、料理、家族写真等の撮影を手がける。写真新世紀第28回公募優秀賞(松村康平との共作)。神戸芸術工科大学非常勤講師。