アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

空を描く 週変わりコラム、リレーコラム

TOP >>  空を描く
このページをシェア Twitter facebook
#287

遊び
― 川合健太

遊び

(2018.09.30公開)

田村先生に会いに行くときは雨の日が多い。この日も京都駅に降りたらパラパラと雨が降ってきて、会場に到着したときには本降りになっていた。京都造形芸術大学瓜生山キャンパス創々館1階で開催していた田村蘊先生を偲ぶ展覧会TSUTSUMU TAMURA MEMORIAL EXHIBITION「眠らない机」に行ってきた。田村先生は学校法人瓜生山学園で45年間教壇に立ち続け生涯現役を貫いた教育者で、この2018年8月4日に逝去された。亡くなるちょうど1週間前、京都の卒業制作のスクーリングでご一緒して「では、また来週は東京の卒業制作のスクーリングで」と言って別れた矢先のことだったので、今でも先生が「おぅ!」と言いながら片手をあげて現れそうな気がする。

展覧会場は2つの部屋に分かれていて、一つは彫刻家であった田村先生の作品が展示されている「田村蘊先生の作品展」、もう一つは展覧会のタイトルにもなっている田村先生の使っていた研究室の机がそのまま移設された「田村蘊先生の研究室」。空間演出デザインコース研究室メンバーや卒業生たちが短期間で一気にまとめ上げたというのは嘘みたいに、以前からずっとここにあったような寛ぎを醸した空間が広がっていた。

「田村蘊先生の作品展」の部屋には先生が制作時によく聴いていたJAZZが流れ、ツンツンに尖った彫刻作品の模型やポップな色で平面構成されたシルクスクリーンなどが並んでいた。うっかり近づくと目に突き刺さりそうなくらいツンツンにしている作品のことは先生もよく話してくれて、それは観る人にとっては危険だけれど、作品としてはどうしても妥協できない部分で、その姿勢に作家としての厳しさをみていた。でも、そうした姿勢とは対極に、「遊び」というのが田村先生の口癖だった。何かにつけ頭で考えようとする僕たちに、手を動かして無心になることの大切さを教えてくれていた。田村先生にかかるとなんでも遊びの対象になって、新幹線に乗っている間にも遊びを見出していた。時速250kmを超えるスピードで進む車内の折りたたみテーブルの上でスケッチブックに点描をしながら「新幹線が揺れると思いもよらん点が描けておもろいんや!」と言っていた。バス停でバスを待つ間も、バス停前の畑にミニカーが落ちていて、それをもう何年も写真に撮り続けて定点観測していた。会うたびに、そのわずかな変化を報告してくれた。特別な何かがもたらされるでもなく、ただただ、時間の経過を楽しんでいたのだ。

そんな田村先生の過ごす時間というのは、「遊びの時間」であって、「時間の遊び」でもあった。その時間の傍にいると、こちらも合わせて変化して、いつもの慌ただしさを離れて、見落としていたものごとにあらためて気づくことができた。主の帰りを待つ椅子とデスクライトに照らされた眠らない机はそこにあって、雨はまだ降り続いていた。

人の波すこし遅らす秋の雨 牛蒡

画像:展覧会の展示風景(筆者撮影)

※展覧会はすでに終了しています。
田村蘊先生を偲ぶ展覧会TSUTSUMU TAMURA MEMORIAL EXHIBITION「眠らない机」
2018年9月15日(土)〜9月23日(日)
京都造形芸術大学瓜生山キャンパス創々館1階