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#241

層間関係と層状効果
― 川合健太

層間関係と層状効果

(2017.11.12公開)

このところ乾燥イチジクを食べるのが朝の日課になっている。プレーンヨーグルトにイチジクのジャムを入れると好みの味になることがわかって、そのついでに固形のイチジクも入れてみようかと近所のスーパーで手に取ったのがきっかけである。一度に一個は多いので、まな板の上で半分に切って2日分にする。乾燥イチジクはトルコの天日で干されてしわくちゃに萎んで原形をとどめていない。そこに包丁を入れて縦方向に切断する。外皮はしっかり、内側は羊羹のようにねっとりしている。干し柿と同じく噛むほどに滋味が増す。

近頃の東京・大手町の建設ラッシュには目をみはるものがある。遠足の下見を兼ねて自転車でぶらぶらしていたら、ビルの解体現場に心惹かれた。常盤橋公園のすぐ近く、日本ビルの解体現場である。建物が削られて、断面が露わになっていた(上の写真)。建築図面の種類に断面図というものがあるが、まさにこれは実物大の断面図。断面の向こうには元のビルの姿も見えて、こんなに綺麗に切断できるなんてといたく感心した。建築の断面図を描くときには「建築物の切断面を表す断面線は太く、切断面以外の目に見える姿を表す見え掛かり線は細く描くと、遠近感が出てわかりやすい図面になる」とよく言われる。加えて、切断面に着彩する手もあるが、この現場では防水塗料が塗られているのか、切断面はグレーに着彩されていた。建築物の外観を表す立面図と違って、描かれた姿を実際には滅多に目にすることができない断面図には想像力を掻立てる力があると思っていて、不意に目の前に巨大な断面図が出現したことで、にわかに空想がはじまり、しばらく立ち止まってしまった。2017年4月17日に発表された三菱地所の資料によると、この現場は「常盤橋街区再開発プロジェクト」の一部で、そのプロジェクトの第一弾として建てられるD棟(下水ポンプ所)の敷地である。先にビルの手前部分を解体してD棟を建て、そこに日本ビルの地下に合築して設けられている東京都下水道局銭瓶町ポンプ所に替わるものを新設する。その後は段階的に10年間をかけて街区全体を再開発するそうだ。再開発の完成イメージ図は目がくらむほどの変わりよう。大手町で巨大な断面図に向き合えるのは束の間か。

明治神宮外苑にニューヨークからやってきたというハンバーガー屋が開店してはや2年になる。店先に掲げられたロゴマークはハンバーガーの形を模していて、夜には緑色に輝いている。去年の夏、俳句の講座で吟行したとき、その店の前まで行って、香ばしいハンバーガーのかおりを嗅いで戻ってくるというルートを歩いた。そのときロゴマークを見ていると、ハンバーガーと俳句に潜む共通点を見つけた。ハンバーガーは何と言ってもパンとパンの間にハンバーグ(パテ)を挟んで食べるスタイルが特徴的で美味しさの秘訣なのだと思う。「パン・パテ・パン」のパンチ力とでも言おうか。層状に重なった食材にかぶりつく時の食感も然り、口の中でタマネギやレタス、ケチャップやマスタードなど、ハンバーグとパンに加えてさまざまな食材がミックスされる味わいがたまらないのであろう。いっぽう俳句は「五・七・五」のわずか十七音で情景を描写し、人の心を震わせる。中には意図的に変化をつけて形式を変えるものもあるが、基本的には「七・五・五」でなく「五・五・七」でもない、上五と下五に中七が挟まれる「五・七・五」の形式で、そこに「寄物陳思」で取合わせる言葉によって、短いながらも強烈な印象をつくりだすのだ。さらには、十七音の言葉には表されずに省略された余韻や余情も加味される。おや、それはまるでハンバーガーと同じではないか。そんなことで、ハンバーガーと俳句は層間関係で、それらが生み出す効果を層状効果と定義づけてみることにした。

垂直に干し無花果に刃を入るる 牛蒡