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#233

大エルミタージュ美術館展を見て
― 加藤志織

大エルミタージュ美術館展を見て

(2017.09.17公開)

世界三大美術館という言い方があるらしい。この世界三大美術館の一つに挙げられることもあるエルミタージュ美術館の貴重なコレクションの一部を展示する企画展が、今年の春から日本を巡回中である。まず3月中旬に東京で、7月からは名古屋の愛知県美術館で9月18日まで公開されている。その後は兵庫県立美術館に移動予定である。今回はその大エルミタージュ美術館展について紹介する。
この企画展は主にヨーロッパ美術のオールドマスター、すなわちルネサンス、バロック、ロココといった16~18世紀に活躍した巨匠たちの作品を集めたものである。この趣旨にそった明快な展示で、会場に入るとまずイタリアのルネサンスからバロックの絵画が出迎えてくれる。つぎは17世紀のオランダ絵画、つづいて17世紀のフランドル絵画、そして17世紀のスペイン絵画、17~18世紀のフランス古典主義絵画とロココ絵画、最後に16~18世紀のドイツとイギリスの絵画である。
ただ16世紀の作品は、ヴェネツィア派の巨人ティツィアーノの絵画や北方ルネサンスを代表する画家ルカス・クラーナハの手になる絵画などが少数含まれるだけで実質的には、バロックとロココの展覧会といってよい。いずれにせよ日本ではまとめて鑑賞することが困難な作品を85点も同時に見ることができる貴重な機会といえよう。
ところで、西洋美術史における「バロック」という用語には大きくわけて二つの使い方がある。一つは、まさに17世紀イタリアの美術、たとえばカラヴァッジョやピエトロ・ダ・コルトーナの絵画、あるいはベルニーニの彫刻作品などに典型的にみられる、劇的・力動的で感情に訴える表現様式。もう一つは17世紀(あるいはマニエリスムとロココの間の時代)を意味する時代概念である。
このようにバロックという言葉には使いわけが存在する上に、さらに単純な理解を阻む要因がある。それはバロック美術に地域的な多様性がみいだされることだ。もちろんバロック美術には共通する特徴もみられるが、イタリアのバロック美術、フランスのバロック美術、オランダのバロック美術には、それぞれの特徴がはっきりと表れている。
実際、イタリアのバロック美術に典型的にみられる劇的・力動的な表現様式は、フランスやオランダではそれ程顕著ではない。そのために、17世紀のヨーロッパ各地の美術をバロックという様式概念によって一括りにすることに疑問を投げかける者も存在する。
こうした各地域のバロック期の作品の様式上の相違は、言葉で理解するよりも、やはり間近で実際に見学することによって明瞭に看取できる。その点で、本展は非常に役立つだろう。イタリア、オランダ、フランドル、スペイン、フランスといった各地域のバロックの特徴と相違点を自分の目で確認してみると面白い。

画像:愛知県美術館入口付近