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アネモメトリ -風の手帖-

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#137

フランク・ゲーリー展
― 早川克美

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(2015.11.08公開)

2016年2月7日まで、六本木ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHTにて「建築家フランク・ゲーリー展 I Have an Idea」が開催されている。今日はその紹介をしたい。

世界的に活躍する建築家フランク・ゲーリーは、ビルバオ・グッゲンハイム美術館をはじめ、昨年開館したルイ・ヴィトン財団など、半世紀以上にわたって建築の慣習を覆し、世の中に挑戦する作品をつくり続けてきた。この展覧会では、そのゲーリーの「アイデアの力」に焦点をあてて、「建築」「人」「技術」の3つの視点で彼の変わらぬ信念と力強い姿勢を紐解いている。

まず、会場センターに配された模型が圧巻であった。つくっては壊し、またつくり続けることで生まれた数多くの模型。アイデアが細胞分裂のように増殖しあるいは分解されて昇華していくプロセスを実感することができる。

そして、アイデアの実現に不可欠なゲーリー・テクノロジーによるシミュレーションのプロセスが映像で紹介されていて、その完成されたシステマチックなチーム体制に驚かされる。

また、会場には、ゲーリーの言葉が随所に散りばめられている。

マニフェスト

まずアイデアが浮かぶ。ばかげているけど気に入る。模型をつくって嫌いになるまで見続けて、それから違う模型をつくることで、最初のばかげたアイデアを別の見方でみる。するとまた気に入る。でもその気持ちは続かない。部分的に大嫌いになって、再び違う模型をつくってみると、全然違うけど気に入る。眺めているうちに、すぐに嫌いになる。直しているうちに新しいアイデアが浮かんで、そっちの方が気に入るけど、また嫌いになる。でもまんざらでもない。どうするか? そう、また模型をつくって、次から次へとつくる。模型を保管するだけでも膨大な費用がかかる。でもどんどん続ける。次から次へと進めるうちに、ほら見ろ、最高傑作だ。輝かしく、安上がりで、今までに見たことがないものだ。だから誰も気に入らない。
悔しくて死にたくなる。ところが、神様がメッセンジャーを送り込んで皆に催眠術をかけるので、皆気に入る。そしてアイデアを盗もうとする。模型も盗んで行こうとする。頭脳や魂まで持って行こうとする。でも踏ん張って、絶対にくれてやらない。
やりたいのは、新しいアイデアを生むことだけ。たった一人で新しい模型をつくり続けたい。保管するのに膨大な金がかかるので、こんなことをしていると模型の倉庫代で破産する。これは偉大な歴史。伝説でもあり本当のことなんだ。
この続きがどうなるかと言えば、皆が嫉妬し始める。嫉妬が彼らに努力するよう仕向けるならばいいけれど、大半は台なしにするためにがんばる。そこんとこが厄介。

フランク・ゲーリー

展示は、自分のアイデアを信じ、その実現のために闘い続ける彼の姿を、彼の言葉の断片や、数多くの模型や映像によって伝えている。

建築に携わる人のみならず、デザインやものづくりに関わる、または興味を持っている多くの方たちに、是非行かれることをおすすめしたい。

自由に発想することの根源的な楽しさと、挑戦し続ける勇気を受け取ったような帰り道は、思いがけず足取りが軽く、心地よいものだった。